第97話 情報処理

30年前、作詞家になりたくて

先生のアドバイスを全て当てはめていた。

「作詞家として食べていきたいなら、

創作は騒音のある所でやりなさい!」

つまり、事務所などうるさい環境でも

作詞出来るようになりなさいという事だ。

究極、エッチビデオを見ながらでも

子供向けの童話を書ける集中力が必要らしい。


あれから30年、主婦になったデバネズミ。

夫がいようが、テレビがついていようが

ガンガン創作出来る……はずだった。

テレビの音が気になって物語が進まない。


創作は諦めて、聖書の資料まとめをする。

夫と同じこたつに入ってぬくぬくと。

ペンを走らせる横で夫が観るのは

戦国武将の番組ばかり。織田信長、豊臣秀吉。

夫は特に徳川家康が大好き。

本能寺の変、関ヶ原の戦い、柴田勝家

伊達政宗など興奮するワードが耳に入る。


「燭台切は伊達の刀だよ。この人の辞世の句

泣けるよね。千利休が自害した理由知ってる?

あのね、ぶつぶつ、それでね、ブツブツ」


聖書の資料を読みながら、戦国武将について

独り事のデバネズミ。夫の冷めた目で黙る。


資料をまとめて、書き始めるデバネズミ。

「あれ、この王様って暗殺されたっけ?

違う、戦に負けて捕虜になったような」


情報が交じっている。目で見た情報と耳で

聞いた情報がごちゃごちゃになっている。

レストランでも、電車の中ででも、

テレビを見ながらでも創作活動出来たのに。


情報処理が下手くそになっているデバネズミ。


夫が外出すればいいんだ!促して、

「ずっと座ってると、お尻から毛が生えるよ!」


あっ、間違えた。根だ。口から出る言葉も

グダグダだ。大元の脳が弱る幸年期。

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