第62話 マニュアル

「前のカードは破棄しておきますね」

「またのご来店お待ちしております」

 サービス業の何気ないマニュアルの言葉。

 先週一週間はとにかく忙しかった。

 染み付いている言葉に苦しんだ一週間である。

 お盆で着たであろう礼服のクリーニング。

 店内が黒一色になる。


「このカードのポイントを移して下さい」

「かしこまりました。ではこちらの……」


 名前を確認すると、ご夫婦で利用されている。


「主人が亡くなったので……。初盆で」


 染み付いているマニュアルの言葉は?

「破棄しますね」「処分しておきますね」


「……、……。」言葉が出ないデバネズミ。

「今日は雨で大変でしたね」

「では、お預りします。お休みなさいませ」

 差し障りのない言葉を選び、頭を下げる。


「またのご来店お待ちしております!」

 なんて言えない。言えない。

 身内の不幸を待っているかのようだ。


 マニュアル通りに出来ない時期は

 体も心もへとへとになる。

 

 配偶者の死がチラホラする更年期、

 考えすぎなのかな?

 



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