第60話 西向く侍

「6月は31日まであるって言ったら、

 『ニシムクサムライ』だよって訂正された」


 娘よ、記憶違いにもほどがある。

 

「2月、4月、6月、9月が、30日まででしょ。

 ニシムクは分かるけど、何で侍が11月なの?」

 キレぎみの娘に戸惑うデバネズミ。

 

 娘よ、『侍』ではなく『士』と書くのだよ。


「いない、いないばぁ」で視覚を確認し、

「一本橋こちょこちょ」で撫で、つみきって、

 掌と腕に刺激を与えて感覚を確認した……

 若い日のデバネズミ。

 遊びを楽しむより、正常なのかを確認した。

 

 ミルクの飲む量が少ないと心配し、

 人参を食べないと苛立った。

 本能的に睡眠と食事にはナーバスになる。

 若い日のデバネズミに余裕などない。


「7月と8月が続いて31日あるのはね、

 ユリウスに負けたくないアウグスツス

 っていう古代の皇帝が決めたの。」


 五才の娘に説明する。デバネズミの失敗。

 

「掌をグーにしてごらん、くぼみが30日、

 高い所が31日だよ。人指し指の高い所から

 1月、くぼみが2月……8月はまた人指し指

 に戻ってごらん。面白いね」

 そう教えてあげれば良かった……。

 子育ては20年の大仕事。21年目から試される。

 押し付けの子育てに反省の毎日だ。


 ただ、更年期と子供の反抗期が重ならない。


 幸年期に感謝するデバネズミ。

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