第31話 速読

「これにね、うすうすって書いてある」

二十年前、ママ友の家で娘が言った。

大人達はリビングでティータイム。

子供達は、子供部屋で遊んでいた。


その家主の子が面白いおもちゃがあると

押し入れを開けて、みんなに見せる。

もちろん、子供用のおもちゃだ。安心。


「……うすうす?」誰も気にせず紅茶をすする。

しかし、その家のママは子供部屋に

すっとんで行った。何だろう?


娘がヨチヨチ歩きの頃、家の物全てに

白い紙に名前を書いてはっていた。

[れいぞうこ][たんす][カーテン]

カタカナと平仮名で書いた。

壁には金子みすずの詩を書いたものを貼る。

二才までにはアルファベットも読めた。

なので、三才の娘が【うすうす】と読めても

全く動じないデバネズミだった。


成長するにつれて娘の文字を読む早さが増す。

私が漫画一冊読み終わる頃、娘は五冊。

一週間かけて読むようにと買った本も一晩。

速読ッカーとあだ名をつけるデバネズミ。

老眼だし、読むのが遅い私はついていけない。


【うすうす】と書かれた物は夜の必需品だった。


謝りたくてももう遅い。

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