第15話 ハートのしみ

「いいもの持ってるねぇ」

いい波乗ってるねぇのパクりのような口調。

夫が私の顔をつつく。

「何するのっ」

素早く反応し、夫の手を払う。


鏡は風呂場の湯気の中でしか見なくなった。

うぬぼれ鏡は幸年期のアイテムだ。


最近はめっきり自分の顔を見ない。

恐る恐るメイクアップ用の鏡をのぞく。

「何これ」

日本地図のようなしみがこめかみから、頬骨に

かけて君臨している。

北海道、本州、ご丁寧に四国まである。


そして、沖縄の位置に素晴らしいもの発見。

「 ハートのしみだ」

ハートそのものだ。感動。


夫婦に結婚生活を漢字一文字で表すと何か?

その質問に、20代は愛が一位らしい。

30代、40代、50代と年齢が上がるにつれ、

忍耐の忍とか、辛抱の辛、憎と

現実味たっぷりの一文字が上位に来るらしい。


そして、60代、70代、80代でまた愛が戻る。

熟年夫婦の愛は本物だろうな。


私のこのハートのしみは夫に対する気持ち。

デバネズミの独り言に寝たふりをする夫。

「あなたの私に対する気持ちはどこ?」

「眉間に刻まれた深いシワかな」


ハエでも止まったら足を挟みそうなシワ?


まあ私への想いが深いってことか。

何はともあれ、いい気分。

幸年期はお互いの気持ちを確かめ合う時間。

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