第14話 ポジデブ

「眠れないで、いつものよろしくね」

「あいよ。寒いから背中集中擦りコースします

夜勤明けの夫は昼間寝ないと体がもたない。

昼夜逆転の生活では昼間眠れない事もあるので

マッサージを要求してくる。

案外これが楽しい。何分で眠りに落ちるのか、

ゲーム感覚でやる。

夫は基本無口だ。言葉が少ない。

マッサージ中の私のトークは子守唄。


「20代の頃にお金で買われそうになったの。

バス停でバスを待っている間、男の人が

近寄ってきてね、これでどうだって言ったの」

反応うすい夫もこの話には食いついた。

「幾らだった?」

「指でピースサインしたから二万円だと思う

でしょ。ポケットから出したお金は二千円」

「安い。安っ」夫が2度も言う。

「勿論、断ったけど、その時ちょうどバスが

来てライトでその男の人を照らしたの。

はっきり全体像が見えた。

ホームレスの人だった」

「へえ。そんなこともあるんだ」

「でも バスに揺られながら、私感動したんだ。

サラリーマンの二万円よりホームレスの二千円

って価値あるでしょ。その日暮らしのホーム

レスの人にとって二千円だよ。

私にしたら20万でどうって言われた気分。感謝したよ」

「プラス思考だね。何より」

うとうとしながら、答える夫。


ポジティブだ。人生どちらかというと、ブス

という自覚を持って生きてきた。

しかし、ブスは附子と書く。トリカブトの毒で

神経麻痺したか、苦しくて死ぬ寸前の顔の事だ。

私はトリカブトを口にした事ないから

ブスと違う。自分に言い聞かせる。


幸年期、少し太ったからポジデブと開き直る。


夫は完全に私の手に落ちた。寝顔が愛しい。

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