第8話 紅白歌合戦

  

 二十歳過ぎた娘がとてもいいものを

 使っている。朝の洗顔にパックをする。

「洗顔にもなるし、化粧水、乳液も

 出来ちゃう優れものだよ。少し高い

 けどね」冬は手を濡らす事なく顔を洗える。

 私はハイエナのように娘のパックを貰う。

「二十五才過ぎると、えーと、あれっ、あれがなく

 なるからね」言葉が出ない。

「あれって何、嫁のもらいてのこと?」

それもそうだが、肌に必要な成分だけど。

「あれだよ、むこたとうるい」

一番先にマイナーなものが口から出た。

「もう一度言って」娘は初めて聞くらしい。

「む、こ、た、と、う、るい 」

私はゆっくり分かりやすく言った。

 

「それ誰?たとう類君なんて知らない」


  人じゃないわい。類くんなんて私も知ら

 ないし、婿になるのが類くんなんて決めて

 ない。ムコ多糖類。だっ。

 コラーゲンとかヒアルロン酸を思い出して

 いたら、笑い話にならなかった。

 得した気分。


 紅白歌合戦にDA PANPが出ている。

 久し振りすぎてうれしい。

「小林くんずっとイケメン保ってすごいね。

 歌も上手いし。お母さんこの子好き」



 なんか間違っている。名前が思い出せない。


 「歌ってる子ならISSAでしょ」

  「そうだっ。良かった思い出せて」


どこでどう記憶がこんがらがったのかな。

  私にも分からない。

  物忘れは幸年期の笑いのアイテムだ。  

 

  

 


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