第7話 モスキート音

 「サルの匂いがする 」

玄関を開けて、深呼吸しながら娘が言った。

 田舎だけど、山奥の方から風に乗ってサルの

 匂いがするものなのか?

 素晴らしい嗅覚だ。


 「ドラえもんのお菓子があるからそれ食べま

 す。ご心配ありがとうございます」

 独り暮らしの男の子が言った。

 駄菓子を夕飯にするのだろうか。

 栄養偏るだろうと心配する。


 笑い話

 「掘った芋、いじくんじゃねぇ」

  外国人が畑で農家のおじいちゃんに怒鳴られ

 「今、3時です」外国人は時間を答える。

 【 What time is it now? 】

 日本語の聴き間違い。お洒落だ。


 笑い話ではない。更年期。

 言葉は聞こえていても、正しくない発音で

 聞こえてしまう。

  

 モスキート音が聞こえた若い頃。

 あの耳障りなブーンが聞こえると、そいつを

 仕留めるまで息を殺す。

 パチン。手のひらに黒い蚊がいる。血は吸

 われていない。私の勝ちだ。


 モスキート音が聞こえない更年期。

 夜中、痒みで起きる。洗面所の鏡に写る顔。

 キョエ~と叫ぶ。何ヵ所も刺された顔面は

 お岩さんのようだ。 私の負けだ。

 

 「春のにおいがする」

 「貰い物のお菓子を食べます」

 

  完全なる聴き間違い。


  けれど、幸年期は毎日が楽しい。

  だって聴き間違いは笑いを生むもの。




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