第5話 意外な告白

 豊介の家は母子家庭だった。ガニメデの鉱山で働いていたお父さんが事故で亡くなって、お母さんは宇宙空港の売店で働いている。

 残念なことに、学校カーストは親の職業で大体は決まってしまう。だから豊介はカースト最下層民なんだ。私の親はロボット工学専門でアンドロイド製造に関わっているから結構上の方。地球じゃとっくに無くなっているけど、何故かガニメデで蔓延っている嫌な風習だ。


「ヒナ。謝りたいことがあるんだ。二つある」

「二つも?」

「ごめん」

「いいよ。何?」


 一つは多分、最近私から離れていた事。雲母のせいだとはいえ私を裏切っていると思ったんだろうな。もう一つは多分アレ。


「最近ずっと無視してた。ごめん」


 ほらやっぱり。


「いいよ。気にしてないから。雲母きららのせいだよね」

「そう。ヒナと仲良くしたら酷い目に合うんだ」

「あれ、何様だろうね。偉いのはお父さんとお爺ちゃんで雲母は関係ないんだけどね」

「そうだよな。何威張ってんだか」

「で、もう一つは何?」


 私がそう聞いた瞬間、豊介は私の手を離した。


「何してるの?」

「土下座してます」

「私には見えないんだけど」

「分かってます。でもこれが僕の気持ちです」


 声の感じから土下座しているような雰囲気は伝わるけど、一体何がしたいのだろうか。やっぱりアレで謝るのかな?


「謝る事って何?」

「ごめん。本当にごめん。何て謝っていいのかわからないんだ」

「だから何?」

「ヒナのペンフレンドって、実は僕なんだ。地球にいるって嘘ついてた」

「大体気付いてましたけど」

「え?」

「だって、地球からの手紙なのにガニメデの紙を使ってるんだから怪しさ満点です」

「え? 分かるの」

「もちろんです。まあ、マナちゃんが見抜いたんですけど」

「あ」

「封筒にも製造元が印刷されてますし。非常に小さいですけど」

「え」

「どういうトリックを使ってたのかもバレてます」

「マジ?」

「マジです。おばあちゃんに転送させてたんだよね。紙の手紙も、電子メールも。頼むのはいいけど、一日何回もメールの転送させるのはどうかと思います」

「ごめん」

「私ではなくて地球のおばあちゃんに謝ってください」

「そうだね」

「そうです」

「怒ってる?」

「ちょっとだけ」

「怒ってるんだ」

「ちょっとですけど」

「ごめん」

「最初は友達が増えたって嬉しかったんです」

「ごめん」

「しかも、地球の友達なんていなかったからそれはもう思いっきり喜んでました」

「……」

「でも、途中で気づいたんです。これは豊介ホースケだって」

「騙す気はなかったんだ」

「分かってます」

「ごめん」

「もういいって」

「でも、結果騙しちゃったから」

「分かってます。私が孤立しないよう気を使ってくれたんでしょ」

「そうだけど」

「だから、気づいたときはものすごく嬉しかった。それまでの何倍も嬉しかったんだよ」

「……」


 豊介は泣いているみたいだった。

 嗚咽を漏らすっていうのかな。

 声が出るのを一生懸命我慢してる感じが伝わってくる。


 この時だけは、私の目が見えなくてよかったと思った。全然気づかなかったって押し通すの。男の子は自分が泣いてるところ見られたくはないと思うから。

 本当は気づいてるんだけど内緒だよね。


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