第6話 レスキュー到着

「ねえ豊介ホースケ

「何かな?」


 私は豊介が落ち着くのを待ってから聞いてみた。


「小学校の卒業文集の事、覚えてる?」

「うん」


 途端に縮こまるのが分かる。

 アレは豊介の黒歴史そのものだから。


「僕はヒナの光になる」


 豊介がまた土下座をした感じがする。


「僕は一生懸命勉強してお医者さんになる。そして目が見えないヒナちゃんの目を治す……だって」

「……」

「その時は豊介ホースケのラブレターだって、みんなにからかわれたよね」

「……」

「でもね。私は嬉しかった。こんなに私の事が好きなんだって。その時は豊介ホースケと結婚したいって本気で思ったんだよ」

「本当に?」

「本当。でもね。マナちゃんから言われた。豊介ホースケの事が好きなら豊介ホースケの夢を応援してあげなさいって」

「……」

「だから返事はしないの。今、告白されても返事はしない」

「そう……なんだ」

「そう。今も豊介ホースケが勉強頑張ってるのは知ってる。地球の医大に行きたいんでしょ。お医者さんになる夢に向かって頑張ってるんでしょ」

「うん。そうだね」

「ねえ豊介ホースケ。私の手を握って頂戴」

「ああ。分かったよ」


 豊介が私の手を握る。

 心臓がドキドキってものすごく高鳴っている。

 豊介はどんな顔してるんだろうか。涙で目が真っ赤になってるかもしれない。豊介の顔が見られないのがものすごく残念だった。


『緊急脱出艇セイバー012。聞こえるか。緊急脱出艇セイバー012。こちらレスキューチーム、ビューティーファイブだ。聞こえたら応答しろ』


「聞こえます。こちら緊急脱出艇セイバー012です。現在二名この中に閉じ込められています」


 豊介が応答してくれた。

 救助が来るとは思ってたけど、こんなに早いとはびっくりした。


『二名とも健在か。体調はどうだ?』


「大丈夫です。清永豊介きよながほうすけ坂本雛子さかもとひなこの二名です。二人とも元気です」


『こちらはビューティーファイブ副長の相生あいおいだ。これから救助に向かう。そのまま座って待て。何もしなくていいぞ』


「はいわかりました」


 豊介の声が上ずっている。レスキュー隊の到着に興奮しているのがまるわかりだ。来てくれたのはアイドルユニットとしても有名なビューティーファイブだったから、豊介がデレデレしているんじゃないかと思うと気が気ではなかった。


 エアロックが開き誰か入って来た。そして突然腕を掴まれた。


「雛子、無事カ、心配シタゾ」

「え? もしかしてララちゃん?」


 マナそっくりな声を聴いて咄嗟に質問してしまった。


「ソウダ。ララダヨ。怖カッタダロウ。モウ大丈夫ダ」


 助けに来てくれたのはララだった。マナの姉のララが来てくれたことがもの凄く嬉しかった。


「マナカラ連絡ガアッテナ。最優先デ救助ニ来タ」

「でもどうして? 救難信号が地球に届くにはまだ時間がかかると思うのだけど」

「私トマナノ間ニハ次元共鳴通信機ガ作動スル。光速ヲ超エテ通信デキルンダヨ」

「本当に?」

「本当ダ」


 まさかとは思ったがこの素早い行動の理由は他にはないだろう。私たちが母船を離れてから30分も経過していないのだから。太陽系最速のレスキューチーム。光速突破のビューティーファイブは健在なり! だよね。


 私達はビューティファイブの救助船、スーパーコメットに乗って母船アースウィンドへと戻ることができた。修学旅行は中止にはならなかったけど、今回の騒動に関与した者たちは〝生命に対する重大な過失〟なる罪で逮捕された。


 私はマナとすぐに合流することができた。手をつなぐと視界は色とりどりの光に溢れる。暗闇からの変化に戸惑ってしまう。

 今回の実行犯は雲母の手下たちだったんだけど、例の裏SNSのログから雲母が指示を出していたことが確認された。


「私をひどい目に合わせたらお爺ちゃんが黙っていない」


 そんな台詞を吐く雲母に相生副長が冷徹な一言を浴びせる。


「迷惑な身内は勘当されるぞ。企業イメージに悪影響を及ぼすからな。覚悟しておくことだ」


 その一言にうなだれる雲母だった。


 可哀そうだとは思わない。

 自業自得、自分の撒いた種。

 クラスメイトを散々泣かせてきたんだから、少しくらいお灸をすえられて当然だろう。


 相生副長は一礼をして行ってしまった。

 問題児連中はスーパーコメットで、ガニメデの司法局へと移送されるらしい。スーパーコメットがアースウィンドから離れていくのが見えた。ある程度離れたところで光に包まれて消えてしまった。


「ワープしました」

「凄い。凄い」

「太陽系で一番速い宇宙船です。私の姉が勤務しています」

「うん。ララちゃんでしょ。彼女が最初に来てくれたんだ」

「そうだと聞きました」

「ララちゃんの姿見損ねちゃった」

「私とほとんど同じです。目の色と、アンテナがツインテール状になっているのが相違点です」

「そうなんだ。後で写真見せてね」

「はい」


 その後、マナは何度も何度も私に謝罪した。

 自分が離れなかったらこんな事故は起きなかったと。

 でも、私はこれで良かったと繰り返しマナに伝えた。

 鬱陶しい雲母が捕まった事。

 豊介の気持ちが分かった事。

 そして、マナのお姉さんであるララちゃんに会えた事。

 私にとっては良い事だらけの事件だったから。

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