第4話 緊急脱出艇
「おーい坂本。こっちでマナちゃんが待ってるぜ」
男の子の声。
誰だっけ。
マナには動くなと言われてたけど、私は声のする方へ歩いて行った。壁に手を這わせながら。
その男の子は私の手を掴んでドンドン歩き始めた。
急に立ち止まると私をどこかの部屋へ押し込んだ。
「その部屋の中だぜ」
さっきの男の子の声。
でもこの部屋の中には誰もいない。私、そういう勘は鋭いんだ。
「お前ら何してるんだ」
「邪魔をするなよ、
豊介の声がしたと思ったら、豊介も部屋に入って来て部屋の扉が閉まった。
「お前らはそこでイチャイチャしてろよ。羨ましいぜ」
「一人にしろって話だったじゃないか」
「閉じ込めたんだから同じだろ」
「そうかそうか。へへへ」
「
「バーカ。反省していろ」
インターホンから声が聞こえた。外にいたのは一人だと思ってたけど二人いたんだ。
何を反省しろというのだろう?
意味が分からないけど、閉じ込められたのは間違いない。これも雲母の仕業って事だよね。
「ここから出してよ」
「出せ馬鹿野郎」
私と豊介はインターホンで訴えるんだけど聞いてもらえない。
「生意気な奴は出てくんな。バーカ」
心ない言葉。
何で雲母の手下って汚い言葉を使うんだろう。
「いい加減にして。非常に迷惑です」
「お前の迷惑なんて知ったこっちゃないね」
プツンと音がしてインターホンが切れた。
『緊急脱出艇セイバー012母船から離脱します』
突然AIがしゃべり始めて部屋が動き出した。
私が入ったのは緊急脱出艇だったの?
「戻って。事故はなかったでしょう?」
『申し訳ありません。音声でのコマンドは受付できません。管理者パスワードを入力の上、メインパネルでの操作をお願いします』
「私、目が見えないの」
「俺がやるよ。管理者パスワードって何?」
豊介が代わってくれた。
『お答えできません』
「俺は一般の乗客だぜ。管理者パスワードなんて知ってるはずがないだろう」
『申し訳ありません。音声でのコマンドは受付できません。管理者パスワードを入力の上、メインパネルでの操作をお願いします』
「ふざけるな。事故でもないのに何で脱出艇が離脱してんのさ。くそ。宇宙船からどんどん離れてる。どうにかしろ」
『本艇は危険区域からの脱出目的で航行しています。現在、母船アースウィンドの核融合炉が暴走中です。核爆発の予想被害範囲から離脱する必要があります』
「そんなデタラメ信じてんじゃねえよ。早く元に戻れ」
『申し訳ありません。音声でのコマンドは受付できません。管理者パスワードを入力の上、メインパネルでの操作をお願いします』
ああダメだ。AIに船の異常を信じ込ませている。こっちには管理者パスワードなんて無い。
「ヒナすまない。あいつらが何か企んでたのは知ってたけどここまで馬鹿やるなんて思ってもみなかった」
「いいよ。
「しかし、本当に離脱するなんて信じられないよ」
「どうしてこんな事が出来たのかな」
「わからないよ」
多分、避難訓練用のプログラムでも使ってるんだ。中に閉じ込めるつもりだったのが、本当に離脱するなんて思ってもみなかったのだろう。
「くそ。宇宙船が見えなくなった。どうすりゃいいんだ」
「どうもこうも。これ、自動で飛んでるんでしょ」
「そうだと思うけど」
「
「無理」
「携帯使えないかな」
「やってみるよ」
豊介は携帯端末をいじくってる。一生懸命電話かけてるけどつながる気配はない。
「ダメだ。離れすぎちゃったみたいで繋がらない。どうしよ」
「じゃあ、この脱出艇の通信機は使えないかな」
「やってみるよ」
豊介がメインパネルを操作し始めた。
ピッピッとタッチする音が聞こえる。
「え? 無線封鎖モードだって?」
「なるほど。私たちを閉じ込めて困らせる目的だから無線を使えないようにしてるんだ」
「くそう。あいつら、帰ったらぶっ飛ばしてやる」
「ホースケ。興奮しない」
「ごめん」
「いい? あいつらはちょっとしたイタズラのつもりだったんだろうけど、これは人命にかかわる重大な犯罪行為だと思うの」
「うん」
「つまり、私たちが帰るかどうかにかかわらず、彼らの罪は裁かれるの」
「そうだね」
「だから、あいつらの事は考えない」
「そうか」
「私たちは私たちがどうしたら助かるのかを真剣に考える」
「なるほど、そうだね。ところでさ。ヒナはどうしてこんなに落ち着いてるんだ?」
「そうなんだよね。私も不思議なんだ。マナちゃんと離れて本当は物凄く不安だと思うの。今、何も見えないのよ」
「だろうな」
「でもね。
「僕のせいか」
「そう、
「僕が馬鹿だから?」
「そうかも」
不思議な事に、豊介と一緒なら何故か落ち着いていられた。
そしてマナちゃんから聞いたことがある。緊急脱出艇の救難信号は非常に強力で、冥王星からの信号でも地球で受信できる。その救難信号を受信したら、どんな船でも軍艦でも必ず救助に向かう義務があるんだって。
「きっと誰かが助けに来てくれるよ」
「どうして信じられるんだ」
「内緒」
「ケチ」
「ねえ、
「いいけど。僕の手じゃ目は見えないだろ」
「いいの。お願い」
豊介は私の手を握ってくれた。暖かくて大きな手。
目は見えないままだけど、豊介の暖かさが胸にしみわたっていく。そして、心が満たされていくのが分かった。
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