六 結末

「――今、事件の起きた公園の前に来ています。現在は警察によって規制線が張られ、一般人は侵入できないようになっているんですが……あ! 見てください! ワニガメです! あそこに巨大なワニガメがいます! い、いえ、ワニガメだけではありません! ザリガニです! ゆうに人間を超えるサイズの巨大なザリガニが怪獣のようなワニガメとケンカをしています!」


 事件の報道で現場を訪れた女子アナが、規制線の外から公園奥の川の様子を垣間見て、カメラが望遠で映し出すヤラセのようなありえない映像にそんなコメントを付けている。


 巨大化したのは魚やワニガメばかりではない。ザリガニをはじめ、その付近にいた水生生物は皆、異様なサイズに変化を研げてしまったのである。


 当然、世間の疑惑の目はツブラヤ製薬と「いろいろクージョーZ」に注がれた。


 当初はその因果性について完全否認していたツブラヤ製薬だったが、その後の報道合戦でじつは臨床実験が不十分なまま国の認可が下りたことが暴露され、他方、研究者の調査では、この駆除薬に含まれる成分によって遺伝子が破壊されるどころかむしろ活性化が起こり、サイズが巨大化するものへの書き換えられていたことが判明した。


 どうやらこのあまりにもずさんな認可の背景には、製薬業を経済政策の支柱にしようとする現政権と、それに忖度した厚労省役人という構図があったらしく、今度は自然界を超えて人間界へも飛び火した社会的問題の様相を呈し始めたのである。


 そして、責任問題で与野党がワーワー無駄に揉めている間にも川端の生物達は巨大化をやめることなく、気づけば今のような行き着くところまで行ってしまっていたというわけだ。


 今や川から溢れ出した巨大生物達は全国の都市を破壊しながら、その生息圏と繁殖数を急速に拡大していっている……。


「――さて、とりあえず一服するか……」


 もしもハルマゲドンの預言が真実ならば、かくやと思える特撮怪獣映画のような景色を眺めながら、俺は落ち着いて今後の身の振り方を考えるため、例の自販機で缶コーヒーを買うことにした。


「ウルトラハイパービター・超おとなのコーヒー……相変わらずのネーミングセンスだな」


 ツブラヤ製薬の商品主体の自販機なので、コーヒーもそんな怪しげな名前のものしかない……だが、他にないので仕方なく、俺はそれを購入するとベンチに腰かけて缶蓋を開けた。


「フゥ……ま、それくらい苦い方が、頭も冴えていいかもしれないな……クビ…」


 どうにも夢か幻でも見ているとしか思えない光景を前に、これが悪夢ならば早く醒めよと、そのコーヒーを一口含む。


「ブゥゥゥゥゥゥゥーっ…! 苦ぁああっ! や、やっぱこの会社、味覚おかしいだろっ!?」


 だが、その超絶的な苦味に俺はまた茶色のその液体を思いっきり吹き出すと、目の前の非現実的な現実もすっかり忘れて、そのトンガったコーヒーの味に思わずツッコミを入れた。


                      (風が吹けば桶屋が呆ける 了)

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風が吹けば桶屋が呆ける 平中なごん @HiranakaNagon

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