四 連鎖
だが、その翌日、事態はさらなる展開を見せる……。
「い、色が変わってる……」
やはり気になって、また出勤途中に寄ってみると、水面の色は緑から赤茶色に一変していた。
周囲に漂う鼻を突く悪臭も、青クサいものから生グサい腐敗臭へ変わっている……これは〝赤潮〟のそれである。
つまり、今度は緑色の藻類に代って、赤色の動物性プランクトンが大量発生したというわけだ。
後にニュースの解説で言っていたが、どうやらあの「スーパークロレラX」とかいう新種の藻は動物性プランクトンにとってたまらなく美味しい大好物らしく、それでこんな一夜にして赤潮が発生してしまったらしい……。
「二日で二種類連続発生なんて、確かに珍しいかもな……」
その市街地で起きた珍しい自然現象に、三脚を立ててパシャパシャと写真撮影するアマチュアカメラマン達の姿もちらほらと見え始めている。
アオコの次は赤潮とはまたずいぶんと忙しいことだが、種類の微妙な違いこそあれ、状況にほとんど変わりはない……
しかし、そんな俺の密かな不安に反して、状況はまた予想外の方向へと進んで行く……。
結論から言えば、赤潮は自然界の理によって瞬く間に消滅し、行政の出る幕はまるでなく、税金が使われることも、また、俺がその費用を賠償請求されるようなことももちろんなかった。
とはいえ、天村川がもとの平穏な河川に戻ったわけではない……いや、むしろ事態はさらにスゴいことになってしまっている。
なぜ赤潮がそんな早く消滅したのか? それは赤潮の原因である動物性プランクトン目当てに、川上から大挙してイワナの群れが押し寄せたからである。
清流でもない街中の川にイワナが来ること自体驚きだが、その量もハンパない。水面は絶えずバシャバシャと波立ち、文字通り「石を投げれば当たる」有様である。
どうやら「スーパークロレラX」で育ったプランクトンもまたとてもおいしく、遠く上流から食べに来るほどにイワナ達を惹きつけたらしい。
「人間の舌にはあんな不味かったのに、じつはスゲーなスーパークロレラX……」
バカにしていたけど意外にスゴかったその効能に、正直、感動すら覚えている俺であったが、当然、世間もこの珍事を放っておくわけがなく、以前に増して大々的にニュースで報じられると、全国から野次馬やカメラマン、さらには釣り人達も集まってくることとなった。
釣り糸を垂らせば〝入れ食い〟状態なので、そりゃあ釣り人達にはたまらないだろう。
皆、フェンスに沿って一列に立ち並び、川に釣り糸を垂れる姿がこの数日ですっかり定着してしまった……以前の姿を知らなければ、ここが釣り堀だと思う者もいるかもしれない。
その内にパラソルや休憩用のテントなんかも立てられ始めたかと思えば、獲れたイワナを公園で焼いて食べる者、さらに進化してそれを売る屋台まで現れ、近隣住民の憩いの場だった公園が最早、お祭り会場状態だ(もっとも公園ではBBQ禁止だし、焼いた時の臭いに対するご近所からの苦情などもあって、駆けつけた警察によりすぐに取り締まられたが……)
しかし、イワナを求めるものはなにも人間ばかりではない……アオコの藻をプランクトンが、そのプランクトンをイワナが食したように、今度はそのイワナを食料とする者達が現れたのである――。
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