神社とワンカップ
留花はこうして、神社へと向かう階段の前へとやってきた。辺りには、石畳の上を枯れ葉が移動する音、枝の擦れる音だけが響いている。
彼女はゆっくりと周りを見渡した。しかし、留花以外に人の姿は見当たらない。寂しい場所だ。そう思いながら彼女は急ぎ足で、階段を登る。
階段を登りきると、少し開けた場所に出た。石畳の一本道の先には、少しの階段、その先に賽銭箱と鈴緒、その向こう側には小さな拝殿がある。大きさ的に、人二人並ぶのが精いっぱいといったところに見えた。留花は、石畳の一本道をそれて、|手水舎≪てみずや》へ向かう。
ところが、手水舎の近くまで寄ってみて彼女は気づいた。立派な龍の顔。本来なら新たな水が吐き出されるその口から、水が出てきていないのだ。意図的に止められているのか、故障中なのか。
しばし立ち尽くし、彼女は手水舎の水ためを眺めた。水面はひどくにごっており、たくさんの落ち葉が浮かんでいる。
この水で手を洗うのは、よくなさそう。そう思って彼女は目線だけを今いる場所の反対へ移した。そこには二つの長屋が並んでいる。右側はおそらく、お守りなどを販売するのだろう。いくつもの窓と、窓枠に張り付けられた商品を陳列するための板が、それを物語っている。
建物の電気はついておらず、窓からはみ出した板にはやはり大量の落ち葉がのっていた。どうやらこちらも長い期間、使われていないようだ。留花は、小さく息づき、呟いた。
「……これは……ひどい」
そう言いながらも、彼女は階段を登り、拝殿へと向かう。
拝殿を上から下までひとしきり眺めた留花は、賽銭箱と拝殿の境界線にある木製の格子窓に目を止めた。格子の枠組みに半ば引っ掛けるようにしてワンカップ大関が1缶乗っかっている。しかしそれにもまた、埃や落ち葉がのっていた。留花はそっと、ワンカップを手に取ると埃や落ち葉を払いのけ、元の場所に戻す。そうして、持ってきていた自分の鞄を漁った。鞄の中から、昨日仕事場でもらったクッキーの入った小袋が2個出てきた。少しひびが入ってしまっているそのクッキーの小袋を、彼女はワンカップの隣の格子の隙間に並べる。
それから賽銭箱に5円玉を投入し、鈴を鳴らす。涼やかとは言い難い、がちゃがちゃした鈴の音が辺りに響き渡った。留花は音が鳴りやむのを待ち、祈る。
長い間留花は、お願いを伝え続けた。それから踵を返して帰ろうとする。拝殿と手水舎を繋ぐ階段を下りたとき、彼女は違和感を感じた。
先ほどここを通った時とは、何かが違う。
そう思い、注意深く辺りを見回した。そしてぎょっとする。
お守りを売っていたと思われる場所の隣の建物、おおよそ倉庫か何かだと彼女が思っていた場所。先ほどまで暗かったその場所に電気がついていた。しかも入り口は開いており、入り口の前に自立式の看板が置いてあった。そこにはへたくそな字で、
「かふぇ。 なにかしら だします」
と書かれてあった。
「何かしら出しますってどういうこと……?」
そう呟きながら、留花はスマートフォンを取り出し検索サイトで、神社の名前とカフェの二つのワードを検索ボックスに入れて検索をかける。彼女が欲した情報と合致した情報は、叩きだされた数百件の情報の中からたった一つだけ。情報量の少なさに驚きを隠せない彼女ではあったが、さらにその情報を見て絶句した。
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