ノックバック

春嵐

雨の日の告白

 先を越された。

 昼ごはんを食べる前の段階で微増だった銘柄。昼ごはん食べ終わった後に確認してみたら、数倍まで膨れ上がっている。

「買い逃したかなぁ」

 買うか迷いたいところだったけど、外行きの予定があるのでとりあえず画面を閉じた。

 棚からスカートを出す。

 上着。上着はどこだ。

 装飾品は面倒だから付けなくていいや。

 二重認証。扉が開く。

 数日ぶりの外出。

「雨かよ」

 そのまま家に戻る。

 傘。

 上着変更。

 スカートの中に動きやすいもこもこした下服。

 靴。

 どうしようか。

「面倒だけどこれでいいや」

 長靴。

 二重認証。扉が開く。

「おっ」

 恋人がすでに扉の前に立っていた。

「あらどうも」

「どうしたの、そんな雨みたいな装備で」

「えっ」

 いや、降ってるじゃん。

「一階のカフェで囲碁って予定じゃなかったっけ。私の勘違いでした?」

「だっけか」

 そういえば、そういったような、気が、しなくも、ない。

 いやある。

 雨の予報だから一階のカフェでよくねって。私が言った。

「ちょっと待ってて」

 一階のカフェならもはやスカートすら要らない。長袖長下。

「いやいやいや。せっかくだからお外行きましょうよ」

「えぇぇ」

「だってそれ、たぶん二回目の衣服チェンジとかじゃないですか?」

 よくご存じで。

「いやね、銘柄がね、いいのがあってね、迷ってて。それでちょっと気がね、そっちに削がれて」

 とりあえず、家に戻って着替えだけしながら喋った。

 そういえば、恋人を家に入れるのは初めてかもしれない。

「あ、もしかしてその銘柄、昼前に微増してたやつですか?」

「うん。そこの画面に出てるやつだよ」

「あっ、これ、ごめんなさい私が買いました」

「ん?」

「待ってる間が暇だったもので」

 待ってる間?

「どゆこと?」

「あっ」

 何を待ってたんだ?

 ガタガタという音。

「あのっ」

 着替え中に入ってくんな。

「あっごめんなさいっ」

 顔赤くしてそっぽ向くのかわいいな。

「なんですか。お着替えよりも優先される事項ですか?」

「こっこれを、渡したくて」

 そっぽ向いたまま手が差し出される。

 指輪。

「おぉ」

 プロポーズじゃん。

 待って着替えるから待って。

「おぁっ」

 上着が絡まった。

 焦るな私。

 いや待って。

 首に絡まった。

 ちょっとくるしい。

 前が見えない。

「あっあのっ」

「ごめん助けて」

 上着に力が加わる。

 首に質感。入った。ようやく首入った。

「ぷはっ」

 視界が開けた。

 目の前。

 恋人の顔。

 ちょっと、照れる。

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ノックバック 春嵐 @aiot3110

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