志藤 美紗 第四節
ランニングから自宅へ戻り、かいた汗を流すためにすぐさま入浴。そのまま浴槽の中で両手を合わせて30秒押し、今度は30秒引っ張るインナーマッスルを鍛えるトレーニングを行った。
入浴を終えると髪を乾かしストレッチを10分。それらの日課をこなすと、宿題に取りかかった。
夏から始めた自主トレだが、まだ弓道での実感は少ないものの、どういうわけかトレーニング後の勉強は捗るようになったと思った。
宿題を片付けベッドにうつ伏せに寝転がると、川村にスマホで録画してもらった自分と真美の立ちを再生した。
川村に指摘されたのは体に力が入りすぎて固くなっているということ。
そこに注目しながら観ていると、なんとなく以前とは違う気がする。少しずつ前に進んでいる。いろんな場所で気づけば弓道のことを考えている。
だが、これだけしても真美に追い付けない自分がもどかしかった。
自分が一歩前に進めば真美も一歩進んでいる。自分が五歩進めば真美は六歩進んでいる。
スマホの画面を消してベッドに放り投げると仰向けで大の字になった。
(もっと上手くなりたい。)
目を閉じてイメージトレーニング。客観的なイメージで自分に弓を引かせ、前後左右、俯瞰と煽りで立体的に観察しながら繰り返す。
スマホの短い着メロがなった。イメージトレーニングを止めて再びスマホを掴むとパスワードを解いた。
『お疲れさまー
来週末に秋季大会があるらしいんだけど、先輩から聞いてる?』
無料SNSを通じての真美からの連絡。真美の文面は絵文字を多くは使わず、いつも割りとシンプルなものである。
(まあ彼氏との方ではどうかはしらないけどねっ!)
彼氏がたまに練習を見に来たり迎えに来たりとイチャイチャを見せられてることを思い出し、急にイラついた。
両手の指を使って素早く返信。
『おつおつー(σ≧▽≦)σ
え……特に大会のこととか何にも聞いてないよ……(;´д`)
ていうか、先輩いっつもそういう連絡するの忘れてるんだけどっ!(*`Д')
秋季大会ってどこであるの?(?_?)』
対して美紗は絵文字や顔文字をバンバン使ってキラキラしたカラフルな文面である。
『よかった、確認しておいて……。
松浪大学の弓道場だって
公式戦じゃなくて、大学主催の大会らしいから、学年とか関係なく男女混合の三人立ちで団体戦が出来るらしいよ』
名義借りしてる人間を除いて部員は川村、真美、美紗の三人のため公式戦での団体出場は出来ず、川村を含めて事実上、初の団体戦となる。
『ありがとっ♪ヽ(´▽`)/
明日、先輩にも聞いてみるね(ФωФ)』
それからしばらく雑談し、キリの良いところで会話を終えた。
(試合……練習の成果が試せる。)
団体戦なので味方ではあるが、自分があれからどの程度真美に近づいたか推し測るには良い機会だと捉えた。
調子も上向きな今、来週末までしっかりと調整すれば最高の状態で試合に挑める。
(練習量を増やしながら調整するには……。)
的前での練習量には限度があり、真美もほぼ同じ量を練習する。
ベッドから起き上がると机に掛けていたゴム弓を掴んだ。
やはり時間外の練習で増やす他ないという結論。的前は川村に注意されて出来ないが、ゴム弓なら増やせる。
「ーーっしゅんっ!」
夜は気温差が出てきて湯冷めしつつあることにくしゃみで気付き、今日のところはゴム弓での練習を諦めて体を休めることにした。
(当日までケガと体調管理に気を配りながら練習だ。)
決意を胸にベッドに潜り込むと室内の灯りを消して就寝した。
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