第12話 暗子&カノ in 高校
◆黒木暗子◆
充実した3日間だった。
毎日、東京の観光スポットへ赴いては、カノと遊び回った。
人生で一番カメラを使ったし、ここ最近で一番お金を使った。
そして、ここ3年間くらいで一番人と話したと思う。
……悪魔か。
そして、遊び疲れてよく眠り今は午前9時半。
朝ごはんを食べつつ、今日もどこかへ行くんだろうかと考えつつふと思い出した。
そういえば黒魔術をカノから習おうと思っていたのだった、と。
◆◆◆
「え? 黒魔術できないの?」
「うん」
「あ、悪魔は魔法とかは使わないのかしら……?」
「そーじゃなくてさ。 悪魔はね、魔界では使えるんだよ、魔法。 でもねぇ、こっちじゃ使えないんだよねぇ」
「そ、そうなのね……」
がっくし。
「あわわわわ、ごめんね! 先いえばよかった! そんなに落ち込まないでよー」
「いや、あなたは悪くないわ…… 仕方ないもの」
「いやぁね、人間界で魔法使おうとすると、色々いるんだよねぇ。 あ、魔術っていうんだっけ?」
「? 魔法と魔術は何か違うの?」
「魔術は人間世界で魔法を使うための『術』のことなんだよー」
「ああ、そうだったのね」
「そそ、魔界では魔力の移動がいらないから良いんだけど、こっちで魔法を使うときは魔力の移動がいるでしょ」
「あ、ああ。 そうね」
「悪魔はねー本能で好き勝手やってるから、魔術とかわかんないんだよねー」
「そ、そうなのね、本をいる?」
「あ、いやそういう問題じゃないんだ。 悪魔の性なのかな? 魔術を使おうとしても何もうまくいかないんだ」
「何もうまくいかない……?」
「なんでだろうね?」
悪魔は本能で生きると言っていた。
人間と違い想いや本能を閉じ込めたりしないと。
──人間とは本質的に相容れないと。
そのへんが関係しているのかしら……?
人は群れを作り、生きる。
その群れの中では好き勝手が許されないというのはよくある話だ。
群れるためには理性が必要で、群れることで人々はお互いの欠点を補い合う。
そうして、人間は成長する。
技術が生まれる。
魔術は人間の技術によって魔法を体系化したもの。
結局、魔術も理性の先にあるのだ。
理性を切り捨てた悪魔には受け入れられないのも無理はないのかもしれない。
「……かなしいことだわ」
「? 何かいった?」
それは人間と悪魔は結局仲良くできないと言うことではないのか。
──本質的に相容れない。
カノは私をどう思っているのだろう……
「そういえばさ」
「……な、なに?」
「暗子は学校行かないの? 平日でしょ、まあ契約してからずっとそうだけど」
「あぁ。そうね……」
「行ってみたいなぁ! 学校!」
私は元々不登校気味だった。
両親は共働きで基本私に関心がない。
退学にでもならなければ何も言わない。
学校。
あまり行きたくないんだけれど。
まだ、10時。
3限には間に合うかしら。
「じゃあ、い、行きましょうか。 でも透明化していてね」
「りょーかい!」
◆◆◆
「黒木。 遅刻だぞ。 それに欠席するなら連絡しなさい」
「は、はい……すいません……」
私は授業中で気まずいなか、自分の席に座る。
ヒソヒソと話す声が聞こえる。
佐藤、安西、浜本がクスクスと笑いながらこちらを見た。
三人とも髪の色は明るくて、クラスの中心的な存在だ。
いわゆる陽キャである。
「感じ悪いなぁ。 アイツら」
カノが話しかけてきた。
声は私にしか聞こえないらしい。
ノートに書いて返事をする。
「そうね」と。
「でも凄い! おんなじ服しかいない……!」
……その感想にはなんて答えようかしら。
◆◆◆
昼休み。
学校に行く途中に買ったサンドイッチとトマトジュースを持っていつもの場所へ移動する。
「えっ。 トイレじゃん」
「……」
所謂、便所飯というやつだ。
クラスに馴染めなかった人間の果てである。
クラスでわいわいと楽しく皆がお昼をしている中、隅っこでご飯を食べるのは精神衛生上良くない。
……トイレは純粋に衛生上良くないけれど。
というか、私がクラスにいると迷惑をかける。
明るい教室に一人暗い人間がいるだけで案外気が散るものだ。
「か、カノと話せるし別にいいわ」
「うーん。 まあ私はそれでいいけどねぇ」
「いいの――」
足音が近づいてきて、誰かがトイレに入ってきた。
この声、さっきの私を見て笑っていたあの三人組だ。
「……ねー。 そういや、今日あの根暗来てたね」
「あー。 来てた来てた!!」
「クソどもっててマジ受けるー!」
「ね、教室まで暗くなるから来てほしくないわー」
「それな。 てか個室で聞いてんじゃね?」
「あっ。 やっべ。 暗木ぃー、聞いてたらごめんなー」
「佐藤、全然謝る気ないしー。 暗木ちゃんかわいそー」
「けど、便所飯とかありえないっしょ!!!」
「それーー!」
とさんざん言ってゲラゲラ笑いながら出て行った。
言われ慣れているので別に私はそんなに傷つくわけではない。
むしろ、ちょっと罪悪感を感じてしまう。
私がもっと明るくて外交的な性格なら、嫌になる人間は私も含めて誰もいないわけで。
……いや、私よりちょっと明るい人間に対象が移るだけなのかしら。
私にはよくわか――
「――殺してきてあげようか?」
「えっ?」
「なんだよ、あいつら。 暗子は何もしていないじゃんか」
「いや、そ、それはそうだけど」
「魔法は使えないけど、階段とかで蹴っ飛ばせば案外大けがするもんだよ」
「だ、駄目よ! 私はいいのよ…… 暗くてクラスになじめない私が――」
そう私はいいのだ。
彼女達は多くの人に必要とされている。
私とは違って多くの人と関わりがあって――
「私がよくないの!!!!」
「か、カノ?」
「友達があんな風に言われて黙ってられるわけないじゃんか!!!!」
「カノ……」
――私は最低だ。
カノはとっくに私のことを友達だと思ってくれていた。
何を疑っていたのか。
「何が彼女たちには多くの関わりがある」だ。
口にはだしてはいないけど、カノのことを私は心の中で無下にしたのだ。
私は一人ぼっちだと、カノの事を自分の中から排除していた。
空気が読めなくったて、友達がいなくたってそれがカノに対して失礼で、酷いことだっていうのはわかる。
こんな私のために怒ってくれるたった一人の友人。
――悪魔だって関係ない。
「……ごめんなさい」
「? 暗子が謝ってどうすんのさ」
「わ、私は、ひとりぼっちだって、――たとえ私が傷ついたって誰も悲しまないし、私以外は損しないって、そう思ってた……」
ごめんなさい。
「私はカノの思いを無下にしてしまった。 酷いやつよ。 だから、その、ごめんさい」
「? よくわかんないよ」
「……。 これからも、と、友達でいてねってことよ」
「! 当たり前じゃん!!!」
そのあと、私は早退して帰った。
もちろん、カノに頼んでさっきの三人を廊下ですっころばせてから。
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