6月7日 木曜日
第11話 日野 秋奈(2)
◆シェロ◆
「で、気は変わったかしら♪」
土砂降りの中、日野秋奈は傘もささず立ちすくしていた。
見るからに深刻そうで、思いつめた顔をしていた。
「……。 悪魔……」
私を見上げながら彼女はそう言った。
「シェロよ♪」
「……ねぇ。 ホントに契約すれば妹のけがを治せる?」
「治せるわよ。 勝てばね?」
「……」
「かわいそうにねぇ。 意識不明の重体だっけ? あんまり考えてる時間ないと思うけどなぁ」
「……わかったよ。 契約するよ」
「フフフ♪」
「……イライラするからそのしゃべり方やめてくんないかなぁ」
「考えとくわ♪」
「……ちっ。」
人間なんてちょろいものだ。
◆◆◆
秋奈に断られた後、私は契約者の才が全くない 人間を探した。
つまり、魔力を受ける器が小さい人間。
憑依しやすい人間のことだ。
次の日の朝までには見つかった。
その人間はトラックの運転手だった。
憑依は器が小さいものでも長く持つわけではない。
が、憑依すればその人間の記憶を一方的に読み、得ることができる。
つまり、悪魔であってもトラックを運転することができた。
うまく日野秋奈の家に近づいたあたりで憑依を行い。
そして
――
その日は雨が降っていた。
傘もどこかへ飛んでいく。
学校に行く途中だったのだろうか。
日野秋奈の妹は制服を着ていた。
あれでは、制服が台無しだろう。
あんなに血にまみれては。
あんなに雨にまみれては。
この運転手もかわいそうに。
職を失ってしまうのではないだろうか。
――まあ、知ったことではない。
私は契約できればそれでよい。
そして、私は不運にも妹を失ってしまったかわいそうな少女のもとに手を差し伸べてやるわけだ。
──それはもう天使のように。
◆日野秋奈◆
殺してやる。
絶対に許さない。
殺してやる。
死ね。
◆◆◆
妹がトラックに轢かれたということを電話で聞き、学校を早退して病院へ向かった。
傘もささずに駆け抜けた。
妹は意識不明の重体だという。
――なんでこんな。
ふと窓の外をみれば、昨日の悪魔が飛んでいた。
私を誘うように。
導かれるようにいくと悪魔は言うのだった。
「で、気は変わったかしら♪」
──それはもう悪魔そのものだった。
こいつだ。
どんな方法をとったのかはしらない。
こいつが妹をあんな風にしたのだ。
契約して欲しいから私を脅しているのだ。
次は母か、父か。
はたまた友人か。
殺してやりたい。
──でも、でも、こいつしか……
妹は意識不明の重体だ。
妹を助けられるのはこいつしかいないのだ。
私じゃなくていいじゃないか。
なぜ私なんだ。
なぜ私の妹なんだ。
――私はシェロと契約した。
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