ヒロイン役は昔の恋人

期待の新筐体

ヒロイン役は昔の恋人

 オレにその配役が知らされたのはいつだっただろうか。最初の印象は、なかなかぶっとんだタイトルだな、という感じだった。オレは、夏鳥マミ原作のライトノベル『ラブラブエンジェルフォール』通称『ラブフォル』の主人公・彩人に抜擢された。『ラブフォル』は、ただ主人公とヒロインがいちゃいちゃと幸せそうにバカップルぶりを見せつけるという、何の捻りもないリア充アピール小説とのことなのだが、ヒロインである愛実があまりにも可愛いということで一部のコアなファンを獲得し、この度アニメ化されることになったらしい。

 声優としてのキャリアはまだ5年程で、王道バトルモノによく出演させてもらったオレにとって、ラブコメのデビュー作ということになる。正直、こう言ったことは声優として言うべきではないのかもしれないが、いくらフィクションとはいえ恋人役であるヒロインと甘ったるいイチャラブを演じるのは恥ずかしい思いがある。となると、当然気になるのは相手役のヒロインの声優が誰かということだ。オレがこの仕事を請け負った後、ほどなくして相手が誰かを知ることになるのだが、その名前を見たとき、オレは絶句し、そして、愕然とした。戸鞠奈津美だったのである。


 アフレコ当日、オレはスタジオにお世辞にも軽いとはいえない足取りで出向いた。そしてすぐに、ばったりと彼女に会った。

「あ!赤槍さん!お久しぶりです!」

「おお、久しぶりだな、戸鞠」

そこからのオレは、いや、オレたちは、傍目から見たら一切の不自然がないように振舞っていた。ここ数年共演が無かったオレたちは、久しぶりに一緒に仕事が、しかも、ラブラブな主人公とヒロインを演じるということができて、少し照れくさいけれど楽しみにしている、と、こんな感じな会話をした。二人とも、作り慣れた笑顔で要所要所笑いながら。

 いざ本番となり、監督が求める人物像の説明もそこそこに、オレたちは役に入った。お互いのことが好き過ぎるラブラブカップル。歯の浮くような台詞も、脳が痒くなるような行動も、一般の人から見れば痛々しさ爆発の言動のオンパレードを、オレたちは演じ切る。とりあえず一話目の収録が終わったとき、監督のスタンディングオベーションがあった。どうやら、あまりにもイメージ通りで完璧だったらしい。後から聞いた話だが、実際に『ラブフォル』の一話目が放送されたとき、彩人と愛実が寸分の狂いもなく彩人と愛実過ぎて、ファンも納得の出来栄えだったようだ。世間によると、本当に付き合っているかと思わせるほどに感情移入していて、批判するところもない程に素晴らしい、とのことだった。


 今日の収録が終わり、仕事からプライベートへと気持ちが戻る頃を見計らい、回りに人がいないときを狙って、オレは彼女に話しかけた。

「・・・奈津美」

昔みたいに、下の名前を呼んで。

「何よ、慣れ慣れしく名前で呼ばないでくれる?」

彼女ももう先輩後輩の関係を捨て、オレに敬語を使うことはなかった。

「久しぶりだな」

「そうね、3年ぶりくらいかしら」

「ああ、そうだ」

「最初このオファーを貰って、相手があなただと知ったとき、断ろうかと思ったわよ。あの監督もやってくれるわ、最悪のキャスティングじゃない」

「まったくだ」

「とはいえ、私も私で食べていかないといけないからね。変に断って傲慢だ、っていうイメージもつけたくなかったし。まぁ、これからしばらくあなたに会わないといけないのは地獄のようなものだけど、仕方ないわ。これからもよろしくね、とも先輩?」

彼女は最後にオレの名前を呼んで、毒を吐きながらオレの前から姿を消した。世間も、関係者も、誰も知らないこと。オレと奈津美は3年前まで、恋人同士だった。


 今でもはっきりと思い出せる。それはそれは、悲惨な別れ際だった。大喧嘩に次ぐ大喧嘩。お互いの感情が抑えきれなくなり、ものの見事に爆発した結果だった。彼女がオレの家から出て行ったあと、オレはすぐに感じた。もう2度と元に戻らないと。一枚岩に修復のしようがない亀裂が入ったことを直感した。

 それから3年。オレたちは会うことは勿論一切の連絡もしなかった。オレは彼女のことを忘れる為に一所懸命に仕事に打ち込み、オレの生活から完全に彼女のことを除外させようと必死になった。ようやくその奮闘が身を結びオレの頭から彼女が消えそうになっていた頃、『ラブフォル』の仕事が入ったのだ。彼女の言うとおり、オレも最初は何でよりによって、と思った。数多いる声優の中から、どうしてオレとあいつが抜擢されたのか、と。どんな顔をしてあいつに会えば良いのか、オレは邪念なくしっかり演じ切れるのか、夥しいほどの不安が纏わりつき、今から何て憂鬱な日々が始まるのだろうかと、がっくりと肩を落とした。それなのに。

 ある種バカみたいな、でも、溢れんばかりの幸せをまき散らす彩人を奈津美と演じてオレが感じたのは、ここ数年で一番と言っていい楽しさだった。2次元とはいえ、アニメとはいえ、仮想空間とはいえ、作品の中ではオレと奈津美は恋人で、彼女がオレのことを満面の笑みで心から好きだと言う。愛実を、愛実を演じる奈津美をどうしようもなく可愛いと感じたとき、オレは気づいたのだ。3年経ったのに、彼女を忘れようと必死だったのに、オレはまだ、彼女のことが好きだったんだと。

 もしかしたら、オレだけじゃなくて彼女も似たような気持ちがあるんじゃないか?彼女はプロ、故に、プライベートと仕事は完全に割り切れるだろう。それでも、ほんの少しくらいは、オレと恋人の演技をして楽しいと思っているんじゃないか?そう思った。だからこそ、オレは彼女に話しかけたのだ。ひょっとしたら、またやり直しの道があるんじゃないか、って。でも、彼女から帰ってきたのは侮蔑の眼差しとぶっきらぼうな社交辞令だけだった。その時、オレは改めて認識した。もうすでに終わったことなんだと。


 ただ、『ラブフォル』の収録はオレが初め予想したように憂鬱なものにはならなかった。偽で似非で虚構でも、『ラブフォル』の中ではオレたちはまた昔みたいに恋人に戻れる。昔みたいに心からの笑顔で笑い合える。むしろ、『ラブフォル』の収録はオレの中で楽しみになった。

 しかし、アニメはアニメ、フィクションはフィクション。現実じゃない。オレたちの恋人生活は、1クールすべて撮りきった時点で終わりを迎えた。その時オレに残ったのは、作品を撮り終えたという達成感ではなく、得も言えない虚無感だった。分かっていたことだ、何てことはない、と自分を納得させようとはするものの、やはり、もう彼女と恋人ができないと思うと、落胆はふつふつと込み上げてきた。

 オレがそんな絶望に苛まれているとき、今度は彼女の方からオレに話しかけて来た。

「ふぅ、ようやく終わったわね。疲れたわ」

『ラブフォル』の愛実のような、高くて甘えん坊の声ではなく、オフの時の低くてクールな声で、彼女は収録が終わったことを喜んでいた。これであなたに会わなくて済む、そう言われているようだった。

「何か用か?」

オレも表面上は、もうお前とは関係ないだろう、みたいな雰囲気を出す。

「いえ、一つだけいいことを教えてあげようかと思ってね。一応極秘だから他言無用でお願いしたいんだけど、『ラブフォル』2期、決まったらしいわよ。配役は続投で」

「ふぅん」

と、特に興味ないみたいな溜息をついたものの、内心はかなり驚いていた。そして、喜んでいた。これでまた、こいつと恋人ができると思うと、自然に心がうきうきとしてくる。だが、どうせこの想いはオレ一人のものなので、こいつに気持ちを悟られまいとオレはすぐに言葉を付け加える。

「まったく、またイチャイチャカップルを演じなきゃいけないなんて散々なこったな」

本当よね、そんな同意が来るかと思っていたオレの耳には、意外な言葉が入ってきた。

「あらそう?私は結構楽しみにしているのよ、2期のこと」

「え?」

「ふふっ。それじゃあ、また2期のときにね」

・・・楽しみにしている?どういうことだ?オレの頭に疑問符が浮かぶ。楽しみ、ってことはつまり、オレとの恋人役が楽しみってことか?実はあいつの方も、オレとのイチャラブな一連を楽しんでいたってことか?そう考えると、絶望に打ちのめされていた心に光明が差した気がした。が、しかし。

「・・・違う」

オレはすぐに考えを改める。一応、彼女の彼氏をやっていたオレだ。彼女が楽しみだ、と言ったときに浮かべた軽い微笑。あれはオレみたいな浮ついた理由じゃない。もっとしめしめと、何かを企むような笑み。何かある、2期に。彼女の笑みは、オレの2期への心を一気に不安に陥れたのだった。


 数か月後。問題の2期の収録の季節になった。

「・・・な・・・」

オレは貰った台本を見て、思わず目を疑い言葉を失った。序盤の内容こそ、1期と同じように彩人と愛実がデレデレとラブコメをするものだったが、それ以降ほとんどはそんな明るい色調なんてない。あんなに仲の良かった二人に亀裂が入り、最終的には2度と復旧することなく終わる、それが2期の内容だった。

 これはアニメオリジナルの展開ではなくて、原作を忠実に再現しているとのことのようだ。当時、原作がこの急展開になったときも、随分と賛否両論があったらしい。ただ、ファンが本当に見たいというか、楽しみにしていたのは、むしろ前半の順風満帆なラブコメではなくて、後半の支離滅裂な悲惨な展開をどう演出されるのか、だったのかもしれない。その時にオレは気づいたのだ。あいつが数か月前に笑った意味を。確かにあいつは楽しみにしていた、オレと別れられる、この2期を。


 オレは言ってもプロの声優だ。だから、与えられた役はきちんと責任を持ってやり遂げるし、どんなに悲惨で救えない展開になったとしてもそれが原作の魅力なのだから、批判する気なんてさらさらない。でも、そうはいってもやはり、この収録はオレにとって苦痛でしかなかった。

 実際に収録している最中は、苦悶するオレに対して、逆に奈津美はいきいきしているようだった。オレを愛していた愛実の様相は見る影もなく、飛んでくる罵詈雑言、人間性の否定。対する彩人も大暴れの大乱闘。周囲の人間を巻き込んで崩壊していく二人の間柄が、延々と描かれた。分かってはいる、これは演技でただの創作。分かってはいるが、演じているとき、オレはどうしても自分たちの過去を重ねてしまった。幸せの絶頂からのどん底。あまりにもオレたちと似ていたから。

 ただ、オレの辛さはともかくとして、2期もすこぶる評判だった。1期とのあまりにも格差をどう演じ切るのかが話題だったらしいが、心配も杞憂に終わり、望んだ通りの崩壊ぶりだと評判になった。結果として、この作品はオレという声優の評価をあげることになったのだが、何てことはない。むしろ、オレはいつもよりも“演技”をしているつもりはなかった。ただ、自分の経験を投射するような感じでこなしていただけなのだから。

 足が重い。彩人をこれ以上演じたくないとすら思った。だが、人間というのは、というより、オレの恋心というのはこの上なく厄介なもので、こんなに辛いのに、きついのに、いざ2期の収録が終わりに近づいてくると、寂寥感の方が上回った。もう奈津美と会えなくなるという寂寥感が。

 あっさりとさっぱりとした幕引きだった。まるで救えない最終回を迎えた『ラブフォル』の収録はあっけなく終わった。幸せな1期と悲惨な2期、相当に急展開した流れだったけれど、終わってみればやっぱり楽しかった。代表作は何ですか、と聞かれたとしたら、『ラブフォル』だと胸を張って言えるくらいに。

 オレは普段ほとんど泣かない。泣き演技もしたことはあるが、それはあくまで演技であって実際に涙が出たことはない。だが、この『ラブフォル』のときだけは、愛実に、いや、奈津美に、めちゃくちゃに攻撃されるときは、本当に悔しくて切なくて泣きそうになった。そして今も、オレは失意に苛まれている。もうこれで、かりそめとはいえ繋がっていた奈津美との関係がぷっつりと切れてしまったのだから。


「終わったわね」

「ああ」

オレたちは最後の、あくまで共演者としてだけの会話をしていた。適当に感想を言い合って、オレは頃合いを見て別れを切り出した。これ以上長くいると、また未練が残ると思ったから。しかし、すんなりと離れると思った奈津美が、最後に一つ、と口を開いた。

「『ラブフォル』はこれで完結よ。原作を知っているかはしらないけれど、もうこれ以上、彩人と愛実の話は進まないわ」

「そうか」

駄目押しの一手だ。3期もOVAも何もない。『ラブフォル』は、いや、オレと奈津美の関係はこれで終わる。

「どうだった?『ラブフォル』を演じてみて。まさか、久しぶりに私と話せて嬉しかった、なんて思っていないでしょうね?」

「は、ふざけ・・・」

図星の一言を吐かれて、反射的に否定しようとしたが、すぐに口をつぐんだ。もう会うことも無いんだ、これ以上意固地になってどうする?最後くらい、少しは素直になろうと思った。

「・・・いや、そうだな。少なくとも、楽しくないことはなかったよ」

馬鹿にされることも、軽蔑されることも覚悟の上で、オレは本音を言った。

「・・・ふぅん、そうなの。でもそれじゃあ原作者の気持ちに反するわね」

「・・・?どういうことだよ」

「『ラブフォル』の正式名称は『ラブラブエンジェルフォール』。エンジェルフォールっていうのは、世界で一番落差の大きい滝のことよ。絶頂から絶望への急転直下をこのタイトルは表しているってわけ」

「へぇ、そうだったのか。でもそれだったらしっかりとオレたちはタイトル通りの展開を演じられたんじゃないのか?」

オレの返しに奈津美は反応しなかった。

「・・・あの時はどうしようもなかったからね。この小説が発表されたのは、今から3年くらい前。あの時は、溢れてくる気持ち、やり場のないこの気持ちを文字にして言い殴るしかなかった」

「・・・お前、何を・・・」

「どうしてこうなっちゃったんだろう。それが分からないまま、ひたすらに書き続けた。そしたらどういうわけか書籍化して一部の人から人気は出るし、こうしてアニメ化にもなるしで、人生分からないものよね」

ざわざわと、心が揺れる。

「少なくともこの原作者の気持ちは、今のあなたが抱いているような“楽しかった”なんて気持ちは求めていない。文字に起こそうとした経緯はただ一つ、復讐なんだから」

「・・・まさか、お前・・・」

「・・・気づかなかったわね。夏鳥マミは戸鞠奈津美のアナグラム。『ラブラブエンジェルフォール』は、私が書いたのよ」


 頭から一直線に、閃光がオレを貫いた。椅子に座っていなかったら立ちくらみを起こしていたところだった。しばらく、反応もできなかった。

「そっくりだったでしょ?彩人と愛実の状況が私たちに。そりゃそうよ、だってあの二人のモデルは私とあなたなんだから。赤槍智と、戸鞠奈津美、それぞれ一個ずつ文字を飛ばして、あやと、と、まなみ」

動揺するオレを意に介さず、奈津美は粛々と説明を続ける。

「妙だとは思わなかったの?あまりにも私たちに似ているラノベの主役が私たちになるって。私が頼んだのよ、監督に。この役は是非私にやらせてほしい、そして、相手役にふさわしい人がいるってね」

「・・・すべて、お前が仕組んだのか」

「すべてというと語弊があるけどね。『ラブフォル』のアニメ化は私にとっては完全に偶然だし、2期が決定したのも世間の評価が高かったからだし」

「・・・でも、結局はお前の思い通りになったわけだ」

「まぁね。1期で私たちの楽しかった頃を思い出させて、2期で絶望に叩き落す。まさに思い描いていた通りよ」

・・・こいつは分かっていたのか。オレが1期で有頂天になることを。そして、2期で魂を削ることを。なるほど確かにこれ以上ない仕打ちだ。まるで道化、こいつの掌で踊らされたピエロ。

「最後にすべての真実を話して私の復讐は完成」

・・・まったくもって、救えない。

「・・・するはずだった」


 声のトーンが変わった。

「・・・少なくとも、あなたと別れて一心不乱に小説を書いたあの時の私は、あなたへの怒りで満ちていた。だから、原作者・夏鳥マミの本意は達成されたということ。・・・でも」

「でも・・・?」

「・・・気づいたのよ。あなたと一緒に愛実を演じて、もう一度、あなたの恋人になって。私はあなたのこと、ほんの少しも吹っ切れていないんだって」

「・・・」

「好きだからこその裏返しってやつよ。あなたへの怒りも憎しみも・・・。単純な女よね・・・。あなたに3年ぶりに会ったあの日、私の心は簡単にときめいたんだから」

オレは黙って彼女の話を聞いていた。

「今となっては思うのよ。私があの時、半ば神の啓示を聞いたかのように小説を書きあげたのは、あなたへの怒りを誰かに知ってほしかったからじゃなくて、今日、この瞬間の為だったんじゃないかって。あなたと私を、また繋げるためだったんじゃないか、って。・・・ねぇ、もし良かったら。もう一度私たち、やり直せないかしら」


「ふざけるな・・・っ!!」

オレは怒鳴った。心から奈津美に叫んだのは、あの時の喧嘩以来だった。そんなオレの姿を見て、今までクールに振舞っていた彼女の顔が崩れた。

「・・・そう、よね・・・」

誰が見ても分かる、落胆の顔だった。

「・・・今更、何を言ってるんだ、っていう話よね・・・。あの時、あなたを振ったのはこの私・・・。それなのに、3年経った今、寄りを戻してくれだなんて、都合が良すぎよね・・・」

奈津美は気丈な振る舞いを見せていたが、今にも泣きそうなのはすぐに分かった。

「・・・悪かったわ、図々しいことを言って。あなたと共演して、本当は分かってた。あなたにとって私はもう、過去の女、終わった女だって。でも、これだけは言わせて。あなたともう一度恋人になれて、本当に楽しかったわ・・・」

意気消沈したように、小さな小さな声で、奈津美はオレに背を向けて歩き出した。そんな背中にオレは再び叫んだ。

「・・・ふざけるなよ・・・。どうして・・・。どうしてもっと早く言ってくれなかったんだ!!」

「え・・・?」

「オレがお前に振られて、どんだけ辛かったと思ってる・・・!お前に振られた後の3年間が、どんだけ空しかったと思ってる・・・!」

「え・・・。と、智、もしかして・・・」

「オレがお前のこと、どんだけ好きだったんだと思ってるんだよ!!」

奈津美は、目を見開いて驚きの表情を浮かべた。

「・・・だ、だって・・・!私、バカなんだもん・・・!素直になれなくて、意地張っちゃって・・・!それに、私はもう完全にあなたに嫌われたと思ってたから・・・!」

「それはこっちの台詞だ!本当は振られた次の日には、お前に連絡したかった!それなのに・・・」

「私だってそう!ずっとずっと、あなたの声が聞きたかった!あなたの顔が見たかった!この3年間、あなたを忘れよう忘れようと頑張ってきたけど、結局、あなたへの想いは途絶えなかった!」

「オレだって!」

「私だって!」

オレたちの端から見れば鬱陶しい言い合いはしばらく続いた。


 言い争いもようやく落ち着いて、オレが口を開く。

「・・・ったく、滑稽な話だ・・・。お互いがこの3年間、相手のことをずっとずっと想っていたなんてな・・・」

「本当ね・・・。お互いがお互いを諦めきれずにいたにも関わらず、何も踏み出せなかった・・・。彩人と愛実なんて比じゃないわ。私たちの方がよっぽどバカップルじゃない・・・」

「まったくだ。ついでに今となっては、それぞれがどれだけ相手のことが好きだったかで痴話喧嘩・・・。周りから見れば人騒がせなただの大馬鹿カップルだよ」

「間違いないわね・・・。ふふっ、ふふふふふふ・・・」

「くくっ、くくくくく・・・」

オレたちは3年ぶりに、心から笑った。この上なく、良い雰囲気だった。オレは今しかないと思い、口を開こうとしたその時、それを察してか奈津美がオレの口を押さえる。

「私から言わせて」

「・・・ああ、分かった」

彼女は一つ大きな深呼吸をした。

「・・・ごめんなさいっ!」

奈津美は深々と頭を下げた。

「・・・あの時、私がついかっとなっちゃって、理不尽なことをあなたに言って・・・。本当に、すいませんでした!!」

「いや。こっちこそ、ごめんな」

謝りたかったのは、オレも同じだ。

「こんなわがままな私だけど、バカな私だけど・・・。もし、もし良かったら・・・!!」

言いながら、奈津美の目に涙が浮かぶ。

「・・・もう一度、私と付き合ってくれますかっ!?」

「・・・駄目だ」

オレは断った。そして言った。

「・・・付き合わなくていい。・・・オレと結婚してくれ」

「・・・っ!・・・はい、喜んで」

オレたち二人は、がっちりと抱きしめあった。


 アニメはすべて終わったけれど、オレたちの話は終わらない。

「帰るか」

「うん」

『ラブラブエンジェルフォール』、これからはオレたちだけの第3期が始まる。

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