エンヴィ
私は
――誰?
まるで絵柄の違うパズルのピースをバラバラにされて混ぜられたかのように記憶が飛散する。
それから、パチリパチリとピースが合わさりそれが幼い頃の記憶を形どっていく。
父はいつも汗と油まみれの作業着を着ていて、母はよれた服を着ている。
食卓には、白いご飯と具のない味噌汁に漬け物が置かれていることが多かった。
絵本に出てくるホットケーキや、オムライスにハンバーグ。それらを母が作ってくれることは無かった。
それでも保育園にいけばお昼はお弁当が出る。
冷えたお弁当でも、きちんとおかずがあるのはとても嬉しく、美味しかった。
ここには友達も沢山いた。
土日はここに来る友達は少なかったけれど、家には誰もいないからここに来れば寂しくはない。
それに、暗くなれば母が迎えに来てくれる。
自分は寂しくなんかないんだと、そう思っていた。
けれど、偶然出会った亜美の存在によって生まれた嫉妬という黒い気持ち。
あまりにも違う亜美と自分。
亜美ちゃんはいいな。
可愛い髪飾りをつけていていいな。
幼稚園はお母さんが早く迎えに来てくれるなんていいな。
――亜美ちゃんになりたい。
強く、強く願った。
そして、友梨は亜美になった。
勿論、最初は驚き、戸惑った。
朝目覚めたら、いつものカビ臭い木造アパートではなく、パステルカラーの部屋のベッドに寝ていたのだから。
朝食は焼きたてのパンに野菜のたっぷり入ったスープ、それにベーコンと目玉焼き。
まるでおとぎ話の中に入ってしまったと思った。
これは現実ではなく、夢なのだと。
けれど、何度眠って起きても自分は亜美だった。
しばらくの間は友梨の父と母の事を気にかけていたが、あまりの幸せにそのうちそれも忘れていった。
むしろ、あの記憶が夢だったのだと思う事にした。
小学校に上がり、勉強が難しくなってくると母は厳しくなった。
小さい頃には見たこともなかった怖い顔をする事が多くなった。
もっと勉強が出来たら――。
小学4年の時に出会った榎本くんは難関私立中学を目指していて、頭がよかった。
榎本くんは私が成績を上げたいと言うと、嫌な顔ひとつせずに勉強を教えてくれた。
けれど、元々の出来が違うのか、成績は思うように上がらない。
――榎本くんになれたらいいな。
今度は、そう強く願った。
目覚めるとそこはパステルカラーではなく、寒色系に染められた部屋だった。
本棚には漫画ではなく参考書や問題集が所狭しと並んでいて、ああ自分は榎本くんになったのだと素直に受け入れた。
それと同時に
小学校へ行くと、昨日まで自分だった亜美がいた。
とても不思議な感覚だったが、その日から亜美が榎本くんに話しかけてくることはなかった。
亜美はとても幼い子どものようになってしまっていて、小学校に来ていること自体を受け入れられなかったようだった。
泣き喚き、帰りたいと暴れる亜美の姿は次の日から見ることは無かった。
中学2年。
沙耶香を好きになった。
これまでは頭さえ良ければ幸福な人生が確約されていると信じて疑わなかった。
けれど、沙耶香の選んだ人は頭よりも容姿に優れた男だった。
それを知った時、今までに感じたことのない程の嫉妬を覚えた。
――あの男になりたい。
今度もそう強く願ったら叶った。
頭は少し悪くなったが、沙耶香に好意を持たれることがとても幸せだった。
“精神科に入院してるんだって”
何故、こんな
願っただけで叶うのだから、罪悪感も、これまで捨ててきた身体がどうなったのかさえ、考えもしなかった。
そして、今は自分自身に自信を持っている悠真へと嫉妬している。
この身体は本当の自分ではない。
ともすれば、自分に自信を持つことなど到底無理な話だった。
夢から醒めた時、悠真の全身からは冷たい汗が吹き出していた。
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