第5話 長の領域

図書館にはそれはそれは、たくさんの本がある。情報は有益だ。


野望を達成するために本を盗もうと考えた2人だったが...。


「お前らは最近巷で噂の不良共ですね」


「ここには入らせないのです」


「ヤダなぁ...、他人を見掛けで判断されちゃ困るよ」


やれやれといった顔をタイリクは浮かべた。


「そうだよー。私達も心を入れ替えたのさ」



“悪い事はしない”と主張する2人。


博士達は他のフレンズとは違い慎重だった。彼女らから距離を置き、小声で話し合う。


「どうします、博士?」


「取り敢えず、2人から目を離さない様にして欲しいのです」


「怪しい動きをしたら?」


「取り押さえるのです。手段は問いません」


「了解です」


再び2人の前に戻った。


「...この図書館に入るといいでしょう。ただし、条件付きです。2人一緒に行動してください。また彼女に監視してもらいますからね」


「あはは...、随分と信用されてないみたいだね」


タイリクが力なく笑った。


「自業自得ですよ」


後ろから助手が呟いた。


図書館の中に入れたのはいいが、後ろには助手がいるので怪しい動きは取れない。


(さて、どうするか...。)


目を動かしながら作戦を考えていると、


「そもそも...、何でお前達は図書館に来たんですか」


真の目的である、セルリアンや火山についての情報を入手しに来たとは言えない。

軽く人差し指をフェネックに向け、

ここは私が、とサインする。


「何黙ってるんですか。追い出し...」


「いやあ...、ちょっと恥ずかしくて言えなかったんだ。私達も他人に色々迷惑を掛けちゃったからね。お詫びとしてお菓子でも作ろうかなって…」


そう言った瞬間、助手の目の色が変わった。


「お菓子を作るのですか!?」


「えっと...、まあ...」


「こっちに来るのです」



「あえっ?」


「ちょ、ちょま...」


助手は2人の襟を持ち引き摺りながら、

ある場所に連行して行った。


2人はテーブルの椅子に座らされた。


助手がコソコソと博士と話している。


「ねぇ...、何されるんだろ、私達」


「嫌な予感しかしないね」


すると、どこからか料理器具を持ち出す。

ドンと、レシピ本を開いた状態で置いた。


「我々はリクエストしたいのです。

お菓子を作れるなら、食べたいものが」


助手が2人の前で腕を組みながら言う。


「はぁ...」


タイリクも苦い顔を浮かべる。


「ケーキを食べたいのです。作ってください」


「「ケーキ...!?」」


2人は声を合わせ、そして顔を見合わせた。


「ケーキを作ってくれれば、まあ

本の一冊くらい自由に貸してやります」


博士が言った。


「ねえ...、どうすんの」


フェネックが耳打ちする。


「私が博士達を引き付けておくから、

その内に本を探し出すんだ。なるべく短時間で」


「仕方ないか...、はいよ」


「何を話してるのです?」


博士に突っ込まれる。


「ケーキの打ち合わせに決まってるじゃないか!島の長の為に丹精込めて作るよ。

その為にフェネックに新鮮な果物を採って来て貰おうと思ったんだけど...」


「...では、助手は」


「待った。やっぱり、味は好みがあると思うんだ。博士と助手の2人が納得行く味じゃないと。味見してくれないと困るんだよ」


「なるほど...、それもそうですね」


「それなら...、しかたないのです」


(チョロいな...)

顔には出さず心の中でニヤけた。


「じゃあフェネック。

“良い物”を持って来てくれ」


「はいよー」






(ケーキ作るって言っても全然わかんないな...、適当に粉を入れ混ぜればいいか)


「...コイツ本当に作る気あるですか?」


「百聞は一見にしかず...。だと信じましょう」






小一時間...。所々適当に味見を2人にさせつつ作業を進めた。


「よし、これでいいんじゃないかな!」


「はいよー、フルーツだよー」


机の下からひょいと顔を出した。

そして、トッピングする。


「色々ありましたが…、美味しそうなのです」


「これがケーキ...」




「やってくれたかい?」


その問いに彼女は頷いた。



「さあ、待たせたね。完成だ」


「じゅるり...、早く食わせるのです」


「早くよこすのです...」



タイリクとフェネックは片手でケーキを持つ。


「さあ、向こうの机に座って」


タイリクに促されるがまま、博士達は座った。


「特製ケーキ...」


「召し上がれ~」


二人同時に持っていたケーキを2人の顔面に投げつけた。勿論、生クリーム塗れになる。


「じゃあねっ!」


「ばいばーい」


逃げるように立ち去って行った。



「...クソっ!まんまとやられたのです!」


博士が机を叩く。


「ケーキは美味いですが!プライドが傷つきました!」


助手も机を叩いた。


「とっ捕まえて...」


博士が立ち上がろうとしたが椅子から体が離れない。


「た、立てないのですっ!!」


「腹立たしいのです...!」




「タイリクが時間を稼いでくれたお陰で椅子に接着剤を塗っておけたよ。

ありがとね~」


「それで?本は?」


彼女は服の下から2冊の本を取り出した。


「それっぽいヤツを持ってきたよ」


「ナイスだ。許可を取って借りるなんて私達らしくないからね」


「借りパクって言うのかな?」


「万引きじゃない?まあ何でもいいんじゃない?」


「それもそうだね」


2人は悪事に懲りる事無く、森の中を逃げて行った。

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