第56話 救出完了
「あ、ちょっと!!あんたもしかして霧崎じゃないの!?」
「霧崎君!?生きてたんですね!?」
「金木さん!!それに金木さんも……」
「いや、うちらどっちも金木なんだけど!?」
樹海を移動中にレアは全身が汚れた状態の美紀と美香と合流する。今までの勇者と遭遇した時は何らかの問題が発生していたが、今回は特に何事も起きずに再会出来た事に喜びながらもレアは二人の元に移動する。どちらも武器は装備していないが特に怪我をしている様子は見られず、純粋に再会の喜びを味わう。
「あんた生きてたんだね……普通に死んだと思ったよ」
「私もです……」
「俺も最初は死んだかと思ったよ。二人は……無事とは言えそうにないね」
「いや、そうでもないよ?うちら、実はスキルを使って隠密とかいう能力を手に入れたからずっと隠れていたし……ここは食べ物も水もいっぱいあるから他の奴等が見つかるまでずっと遊んでたわ」
「意外とたくましいな……」
「あ、あの……実は私達、子供の頃からよくお爺ちゃんの山でキャンプしてたんです。だからこういう状況にも慣れていて……」
意外な事にサバイバル能力が優れていた金木姉妹は魔物から逃げ延びた後、他の人間が自分達の捜索に訪れるまで平和に過ごしていたという。彼女達は「隠密」と呼ばれる自分の存在感を極限まで薄める能力を使用して樹海の魔物達から隠れていたらしく、ここまで無事に生き延びる事が出来たという。
「それじゃあ、ここから避難しようか。実は俺もちょっとした能力を覚えたから、安全な場所に移動できるよ」
「マジで!?それならちょっと待ってくれない?ここの果実を幾つか持っていきたいから」
「そ、そんな場合じゃないでしょお姉ちゃん!?早く行こうよ……」
呑気に果物の回収を開始しようとする姉に妹が慌てて引き留め、そんな二人の光景にレアは苦笑いを浮かべながらも彼女達を地下の階層に避難させる――
――特に問題もなく金木姉妹を避難させたレアは第三階層にて捜索を再開し、彼は樹海を進む。途中で何度か魔物と遭遇したが拳銃で問題なく対処し、彼は遭遇した5人から得た情報を頼りに捜索を続ける。
「ここだな……雛達が襲われた泉」
遂にレアは雛達がコボルトの群れに襲撃を受けた場所に辿り着き、まずは調査を行う。泉の傍には複数のコボルトの死体が存在し、ダガンの仕業なのか顔面に拳の痕跡が残った個体や背中をへし曲げられた魔物も居た。だが、肝心のダガンの姿は見えず、こちらに人間が戻ってきた様子も見当たらない。
「佐藤君や大木田君も心配だけど、牛の化物に襲われたダガンさんも気になるな……どうしよう」
3人の手掛かりになりそうな物は見つからず、困り果てたレアは自分のステータス画面を開いて文字変換の能力を利用して新しいスキルを作り出すべきかを考える。
「特定の人物を見つけ出すスキルが欲しいな……俺のステータスもまだ変更できるな」
色々と考えた末、レアは転移の能力の条件を変更させて文章を追加させる事に決めた。
『転移――転移魔法を発動させ、自分の一度訪れた場所に移動出来るが距離に関係なく魔力を完全に回復する。1秒に1度しか使用できない(使用可能)』
「……こうだな」
『転移――転移魔法を発動させ、自分の一度訪れた場所に移動出来るが距離に関係なく魔力を完全に回復する。また、自分が思い描いた人物を逆に呼び寄せる事も出来る』
説明文の変更を終えた瞬間、レアは無意識に掌を差し出して自分の呼び寄せたい人物を思い描く。その瞬間、彼の目の前に2つの転移魔法陣が展開され、発光と共に2人の人間が姿を現す。
「うおっ!?」
「うわっ!?」
最初に声を上げたのは瞬と茂であり、彼等は刃毀れを起こした武器を握りしめながら魔法陣の上に姿を現す。その光景を目撃したレアは歓喜の表情を浮かべるが、何故かダガンが姿を現さない事に疑問を抱く。
「霧崎君!?無事だったのか……」
「お前、生きていたのか?いや、それよりも……どうしてここに……」
「あ~……説明は後でするよ。その前にダガンさんを知らない?」
混乱している二人にレアはダガンの存在を訪ねると、彼等は表情を曇らせて黙って視線を逸らす。そんな彼等の反応に疑問を抱いたレアは彼等にもう一度訪ねる。
「ダガンさんは……どうしたの?」
「……死んだよ。僕達を守るためにな」
「ああ……くそっ!!」
悲し気な表情を浮かべながら瞬が言葉を絞り出すように告げると、茂はその場の樹木に蹴りを叩きつける。そんな二人の反応からレアはダガンが死亡した事を確信し、覚悟はしていたとはいえ、自分の身近な人間の死に衝撃を受ける。
「霧崎君、僕達はどうして……」
「ああ……全部説明するよ」
それでも困惑している二人の為にレアはこれまでの経緯を説明し、彼等を安全な地下の階層に避難させる――
――その後、レアは自分が作り出した家に全員を呼び集め、ダガンの死を皆が悲しむ。しかし、彼が死亡した事で皮肉にも大迷宮に留まる必要はなくなり、レアの「転移」の能力を利用すれば元の世界に戻れる事が判明した。彼の能力の「転移」はこれまでにレアが訪ねたことがある場所に戻る事が可能な能力であり、彼はこの能力を利用して皆と共に現実世界に戻る。
異世界を救うために召喚された勇者達だが、彼等は大迷宮で起きた出来事のせいで自分たちが魔物に命を奪われそうになった事が忘れられず、世界を救うなどという気持ちは抱けなかった。自分達を指導してくれたダガンには申し訳ない思いを抱いたが、結局彼等は世界を救う勇者よりも現実世界の平凡な生活を望む。
神隠しのように現実世界ではレア達は行方不明の扱いを受けていたが、最初の頃は騒がしかった周囲も月日が経過する事に大人しくなり、学校を通えなかった分の勉強を補うために彼等は夏休みに補習を受けていた。
「あ~あ……何で休みなのに学校来なきゃいけないの?」
「しょうがないよお姉ちゃん……留年を避けられただけでも良かったよ」
「ちっ……どうして俺がこんな目に」
「茂、そこの答えは間違ってるぞ」
「ねえねえ、霧崎君。これかは下の名前で呼んでいいかな?」
「え、別にいいけど……」
「はあ……どうして僕がこんな事を……」
「ぷるぷるっ」
「うわぁっ!?お、おい卯月!!お前、またスライムを連れてきたのか?」
「あ、ごめんね!?駄目だよライムちゃん!!鞄から勝手に出てきちゃっ!!」
「全く、騒々しいわね……」
異世界から帰還する際、雛はライムを連れ出してしまう。しかも現実世界に戻った途端にレア達は能力を失ってしまい、ライムを元の世界に帰す方法は無くなってしまう。仕方ないので現在は雛が面倒を見ており、たまに彼女の鞄に潜り込んで学校まで付いてくる事があった。
「ぷるぷるっ」
「うわ、急に飛び付くなよ……よしよし」
ライムを抱き上げながらレアは彼(彼女?)の頭を撫でやり、彼は教室の床に視線を向ける。
「……これ、消えないのかな」
「業者の話ではいくら消そうとしても消すことが出来ないだとよ」
「はあっ……次の席替えが待ち遠しいわね」
――レア達が座っている席の床には未だに彼等を異世界から召喚した「魔法陣」が残っており、また魔法陣が光輝いて異世界に召喚されるのではないかと考える度に全員が大きなため息を吐き出してしまう。
※これで一旦完結になります。大分展開を飛ばしてしまいましたが、もしもレアが自分の使用条件を変更し過ぎた場合はこうなります。
異世界から勇者として召喚されたのに何故か「文字変換」という謎の能力を授かりました。 カタナヅキ @katanazuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます