第55話 文字変換の本領発揮
「しょうがない、ここから先は俺一人で行くよ」
「だ、大丈夫?」
「何かあったらすぐに逃げてくるよ……雛はここで二人を頼むよ。ライム、何かあったら雛を守れよ」
「ぷるぷるっ」
自分に任せろと言わんばかりにライムが頷き、レアは転移のスキルを発動して第二階層に移動を行う――
――転移を完了した彼は第二階層の転移門の前に辿り着き、ここから先は本格的に他の人間の救出に動くため、彼は文字変換の能力を利用して家から持ち込んできた「箸」を取り出す。更に彼は以前に作り出した「拳銃マグナム」も取り出すと、彼は鑑定のスキルを発動させる。
『拳銃マグナム――銃と呼ばれる異世界の武器。装填数は6発』
レアは現時点の文字数では作り出せる能力に限界を感じ取り、彼は使用条件の項目に視線を向ける。
「……変更するしかないのか」
使用条件に文字変換の能力を発動させ、文字数を増加させる方法を彼は考える。しかし、条件を変更すれば新しい使用条件が追加される事は間違いなく、それでも彼は意を決して皆を救うために使用条件の改竄を行う。
『文字の加護――1日に9文字だけあらゆる文字を変換できる。文字の削除や追加は出来ない』
『文字変換の対象がアラビア数字の場合、別の数値のアラビア数字しか変換できません』
『一度変換した文字は24時間は変更できません』
現時点で表示されている文字の加護の能力に視線を向け、彼はまず「1日」という部分に視線を向けると、文字変換を発動させて「1秒」に変換させる。
「これでどうだ!?」
使用条件に変更を加えた瞬間、レアのステータス画面に表示されている使用条件に変更が加えられる。
『文字の加護――1秒に9文字だけあらゆる文字を変換できる。文字の削除や追加は出来ない』
『文字変換の対象がアラビア数字の場合、別の数値のアラビア数字しか変換できません』
『一度変換した文字は24時間は変更できません』
『1日の文字数の使用残量を消費しなかった場合、能力が封じられます』
新たな使用条件が追加され、レアはその文章を見た瞬間に予想していたこととはいえ、過酷な条件が追加された事に気付く。
「文字数の使用残量って……こんなの無理に決まってるじゃないか」
1秒で9文字の文字数が加算される場合、1日に蓄積される文字数は「77万7600文字」になる。この文字数を消費する事は実質的に不可能であり、レアは自分の行動が軽率だったのかと考えてしまう。
「いや……もうここまで来たらやるしかない!!」
彼は今日までは能力を使用できる事を利用し、他の人間を救い出すためにもう一度だけ使用条件に変更を加える事を決めた。レアは使用条件の項目に指を向け、今回彼が条件を変更したのは最初に提示されている条件だった。
『文字の加護――1秒に9文字だけあらゆる文字を変換できる。文字の削除や追加は出来ない』
「……こうかな」
『文字の加護――1秒に9文字だけあらゆる文字を変換できる。文字の削除や追加も問題ない』
自分の都合の良いように文字を変更させた瞬間、恐らくは最後の使用条件の追加が行われ、その内容を見たレアは息を飲む。
『文字の加護――1秒に9文字だけあらゆる文字を変換できる。文字の削除や追加は問題ない』
『文字変換の対象がアラビア数字の場合、別の数値のアラビア数字しか変換できません』
『一度変換した文字は24時間は変更できません』
『1日の文字数の使用残量を消費しなかった場合、能力が封じられます』
『今後は他者のステータスは改竄できません』
最後に追加された条件を確認し、レアは今までは他の人間のステータスの改竄を行えたことを知る。だが、彼はある考えを抱いて試しに使用条件の文字を「削除」出来ないのかを試す。
「まさかね……でも、出来たら凄い事になりそう」
彼は一番最初に提示されている条件だけを残し、他の使用条件を全て削除を行う。更に念のためにこれ以上に使用条件を追加させないため、彼は新しい使用条件を追加させる。
『文字の加護――1秒に9文字だけあらゆる文字を変換できる。文字の削除や追加は問題ない』
『使用条件を変更しても条件が追加される事はない』
あまりにも都合の良すぎる条件だが、レアは文字変換の能力を発動させ終えても今までのように条件が追加されず、彼は戸惑いながらも自分が握りしめている拳銃に「鑑定」の能力を発動させる。そして説明文に指を向け、弾丸の数を「6発」から「無限」という文字に変換させる。
今までは『アラビア数字の場合、別の数値のアラビア数字しか変換できません』という条件が合った事で文字変換の能力は発動しなかったが、使用条件が削除された事で今回は成功したのか彼の握りしめていたマグナムが光り輝く。そして先ほどは4発しか存在しなかった弾丸が何時の間にか全て装弾されており、試しにレアは空に向けて発砲を行う。
「よっと」
発砲音が響き渡り、弾丸が間違いなく発射されたはずだが弾丸の数を確認すると全て装弾されたままであり、試しに弾丸を抜き取ろうとしたが固定されたように動かない事を確認し、無事に弾数を「無限」に変化させた事が判明する。
「嘘だろ……本当に上手く行ったよ。最初からこの方法を思い付いていれば良かった」
わざわざ命を危険を犯して近接用の剣で斬りかかるより、現実世界の銃器で遠距離から攻撃を仕掛ける方が安全で確実だと判断したレアは銃を増やすために握りしめた「箸」を文字変換の能力で「銃」に変換させ、今回彼が作り出そうとしたのはFPSのゲームで使用していた「マシンガン」だった。
「うわっと……本当に出てきた。やっぱり、意味が曖昧な文字だと俺の想像通りの武器が出てくるのか」
手元に握りしめていた「箸」が「機関銃マシンガン」に変形する光景に冷や汗を流し、今更ながらに自分の能力の万能性に戸惑いながらも彼は拳銃と機関銃を握りしめる。レベルが上昇した事で身体能力も大幅に高まっており、彼は普通の人間ならば有り得ない筋力を所有しているので軽々と銃器を両手で扱う。
「機関銃の方も弾数を「無限」にして……後は転移石だな」
文字変換の能力は加奈を助けた時に地下の階層で日付を迎えていたので回復しており、彼は惜しみなくアイテムボックスから「レタス」を取り出して「転移石」に変換させる。そして彼は転移門の建物の中に入り込み、他の人間が居ない事を確かめると転移石を利用して発動させる。
「ここが第三階層か……本当にジャングルみたいだな」
自分の視界が見知らぬ風景に変化した事を確認したレアは銃を両手に構えながら周囲の様子を窺い、事前の情報通りに「密林」のような空間が彼の目の前に広がっていた。この階層にて自分を覗いた人間達が訪れたのは間違いなく、既に3人を救出しているため、残りの人間は「瞬」「茂」「美香」「美紀」そして「ダガン」の5名になる。
「皆は何処かな……こういう密林だと銃は間違いだったかも」
拳銃はともかく、機関銃の場合は障害物が多い密林を移動する際には荷物となり、仕方なく彼はアイテムボックスを開いて機関銃を収納する。そして拳銃を片手に移動を行おうとした時、樹木の隙間から人影が現れた。
「ガアアッ!!」
「おっと」
「ギャンッ!?」
姿を現したのは人狼の顔と体毛を生やした人型の生物であり、即座にレアは相手が「コボルト」という魔物だと見抜くと容赦なく発砲を行う。事前に第三階層に訪れていた人間達からコボルトの情報は伺っており、彼は拳銃を発砲して胴体を撃ち抜く。
「グルルルッ……!!」
「お、まだ生きてるのか……だけど終わりだ」
「ギャウンッ!?」
オークよりも頑丈な肉体なのか銃弾を受けたコボルトは後退り、腹部の血を塞ごうとする。その光景を確認しながらレアは拳銃を容赦なく次々とは発砲する。命中力を高める「狙撃」の技能スキルを利用してレアは的確に頭部を撃ち抜き、コボルトは額から血を流して倒れこむ。
「流石に少し可哀想だな……でもコボルトにも拳銃は通用する事は分かったな」
機関銃の場合だと持ち運びには不便だが、拳銃の場合は特に問題はなく、弾数を気にせずに発砲出来るので聖剣よりも心強い武器を手にしたレアは移動を開始する。密林と言っても樹木同士の間隔が一定の距離を保っており、更に果物を実らせた樹木も多数存在した。鑑定の結果の限りでは殆どの果物が食用が可能だと判明し、少なくとも彼が文字変換の能力を使用して食料をわざわざ作り出す必要はない階層だった。
「うん、美味いなこの果物……林檎みたいだ」
蜜柑のような色合いの果物をもぎ取ったレアは試しに食べてみると果汁がたっぷりの果物だと判明し、中身はジュースのよウに甘い液体が入っていた。この階層は第二階層にも負けない程の熱気が存在するが、少なくとも食料に関しては豊富な空間らしく、彼は地下の階層に存在する3人のためにも果物を回収しながら移動を行う。
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