第54話 救出成功

「よし、俺が行くよ。雛は下がってて」

「え、でも……」

「大丈夫だって、俺ならすぐに戻れるから……」

「う、うん……気を付けてね」

「ぷるぷるっ(グッドラック)」



雛とライムに見つめられながらレアは魔法陣の上に移動すると、先程の雛の話通りに魔法陣に乗り込んだ瞬間に光り輝き、やがて彼は転移のスキルを発動した時のように光に飲み込まれる。やがて彼の視界に見覚えのある草原が映し出され、レアが移動した場所はゴブリンが生息する「第一階層」だった。



「ここは……転移門の近くだな。それにしても第一階層に移動する魔法陣だったのか。仕方ない、すぐに戻らないと……」

「えっ……もしかして、霧崎君?」



レアは自分が第一階層に戻ってきた事に気付き、すぐに転移のスキルを発動して雛の元に戻ろうとした時、背後から声を掛けられて振り返ると同級生の「鈴木加奈」が傷を負った状態で座り込む姿が映し出される。慌ててレアは彼女の元に駆け寄り、身体を抱き上げる。



「鈴木さん!?生きていたのか!!」

「こ、こっちの台詞よ……貴方も無事だったのね」

「酷い怪我だ……ゴブリンにやられたのか?」

「違うわ……この傷はオークにやられたのよ。必死に逃げている内に武器を落として……何とか逃げ切れたと思ったら変な魔法陣を踏んだ瞬間に気付いたらこの場所に……」

「そうだったのか……まずはここから離れよう。俺から離れないで」

「え、ええっ……?」



加奈はレアに担がれる形で運び込まれ、即座に彼は安全な「地下階層」に移動を行う――





――無事に加奈を救出したレアは呑気に自分の家の中で眠りこけていた考を叩き起こし、彼女の治療に付き合わせる。そして彼は第二階層に残っていた雛とライムも呼び寄せ、ベッドの上に横たわらせた加奈の容態を窺う。



「鈴木さん、おじやを作ったけど食べられる?」

「ごめんなさい……机の上に置いていてくれる?後で食べるから……」

「加奈ちゃん大丈夫?」

「大丈夫とは言い難いわね……だけど、霧崎君が用意してくれた回復薬のお陰で身体は楽になったわ。ありがとう」「どういたしまして」

「おい鈴木、お前も第三階層から逃げてきたのか?」

「そうよ……それにしても高山君、貴方臭いわよ?お風呂にでも入ったらどうなの?」

「う、うるさいな!!そういう場合じゃないだろっ!!」



レアが文字変換の能力で作り出した回復薬の効果により、加奈の怪我は完全に治療される。それでも疲労が大きく、身体を休ませるためにベッドに横たわりながらも加奈は自分の身に何が起きたのかを語り始める。



「私は第三階層から皆とはぐれた後、実は転移門の建物を発見したの」

「えっ!?本当に!?」

「ええ……だけど、ダガンさんしか転移石を持っていなかったから起動は出来なかったけど……私はどうしても生き延びたくて転移門の上に移動して何とか起動できないのか調べたの。でも、それがいけなかったのね……転移門の魔法陣を叩いていたら急に周囲の柱が光り出して……気づいたときには第二階層の転移門に移動してたわ」

「第二階層?」

「多分、あの転移門は正式な手段で起動させないと前の階層に戻される機能が備わっているのね……私は仕方なく第二階層の転移門の前で皆が助けに来るのを待っていたんだけど、結局はオークに見つかって……」

「逃げているときに武器を落として転移魔法陣の罠に引っ掛かったの?」

「他人にそう言われると凄く間抜けに聞こえるわね……だけど事実だわ」

「落ち込む必要ないよ。どっかの馬鹿は妖刀なんて作り出して暴れ回っていたから」

「わ、悪かったな……」



落ち込む加奈を安心させるようにレアは笑いかけると、彼女は苦笑いを浮かべながらも気が抜けたのか瞼を閉じると寝息を立てる。その様子を見たレア達は部屋を抜け出し、今後の事を話し合う。



「鈴木さんは助けられたけど、まだ佐藤君達とダガンさんが残ってる。俺はもう一度第二階層に戻るよ」

「あ、それなら私も……」

「いや、雛は鈴木さんの面倒を見てくれる?俺達よりも同性の雛の方が安心するだろうし……高山、今度はお前が来いよ」

「い、いやだ!!もう僕は戦わないぞ!!どんな武器でも作ってやるからお前が行けよ!!」

「はあっ?」



情けない台詞を吐いた考にレアは呆れた表情を浮かべるが、彼は意地でも別の階層に移動するつもりはないのか首を振って近くの部屋に入り込み、鍵を掛ける音さえ響き渡る。そんな彼の行動にレアと雛は唖然とするが、部屋の中から考の震えた声が響き渡る。



『も、もう俺は戦いたくない……生き物を斬る感覚が忘れられない……もううんざりなんだよっ!!』



妖刀に操られていた記憶が残っている考は既に数多の生物を切り伏せており、その時の感覚が未だに忘れられない事で戦闘に対する恐怖心トラウマが芽生えていた。そんな彼の言葉にレアは無理矢理引きずり出したとしても戦闘で役立つとは思えず、仕方なく彼は今回は一人で抜け出しに向かうしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る