第53話 付与魔法の長所

「ふうっ……た、倒したの?」

「大丈夫、もうあいつは動けないよ」

「ぷるぷるっ」



雛の砲撃魔法を受けたオークキングは原型を留めておらず、彼女は砲撃魔法の中でも一番弱い魔法で対処したつもりだが、魔術師の勇者である彼女は魔法関連を強化する加護を受けているのでオークキング程度の敵ならば一撃で葬れる事が発覚する。それでも消耗は激しいらしく、彼女は額に汗を流しながらライムを抱き上げて顔を埋める。



「ふうっ……ライムちゃんはひんやりしていて気持ちいい~」

「ぷるぷるっ……!!」

「水枕扱いされて怒ってるよ」



ライムは自分の肉体で熱を冷ます雛に怒ったように震えるが、彼女は決して手放そうとはしない。そんな彼女を尻目にレアはオークキングの死骸に接近し、黒焦げた肉体の中から見覚えのある魔石を発見して回収を行う。



「見つけた。転移石があったよ!!」

「え?本当に?」

「ぷるるっ!!」



胸元にライムを抱き上げながら雛が近づき、レアは彼女に転移石を見せつける。事前に彼はオークキングに「鑑定」のスキルを発動させた時から転移石が存在する事は知っていたが、死骸の中には転移石以外に赤色に光り輝く石を発見した。



「あっ!!見て霧崎君!!これもしかして……」

「結晶石だな……迂闊に拾わない方が良いかも」



オークキングの死骸には第一階層でレアがゴブリンの死体から発見した「結晶石」の色違いが存在し、彼の場合は結晶石を拾い上げた事で大迷宮に生息する魔物に攫われ、地下の階層まで落ちてしまう。それでも結晶石は大量の件検知を蓄積した魔石である事は間違いなく、レアはアイテムボックスを発動して結晶石を放り込む。



「よし、アイテムボックスに回収すれば大丈夫だろ。多分……」

「だ、大丈夫かな……」

「まあ、いざとなったら俺が転移のスキルを発動させて安全な場所まで避難するから大丈夫だよ。それよりどうしてこいつらが鈴木さんの武器を持っていたんだ?」



地面に落ちている弓矢を見つけたレアは拾い上げると、間違いなく同級生の「鈴木加奈」が装備していた弓矢である事を確認する。考えられるとすればこの階層に彼女が既に移動しており、オークキングに襲われて武器を奪われた可能性も考えられるが、肝心の彼女の姿は見えない。既に殺されて食べられていない事を祈りながらレアはオークキングが隠れていた化石に近づくと、異様な悪臭を感じとる。



「うっ……あいつら、ここに住んでいたのか?」

「く、臭いよ~」

「ぶるぶるっ……!!」



巨大な頭部の化石の内部を覗き込むと、オークが食事したと思われる血の痕跡と骨の山が形成されており、レアと雛は鼻を抑える。あまりにも酷い死臭が充満しており、それでも加奈の手がかりを探すためにレアは中に入り込み、弓矢以外に彼女の所有物、あるいは本人が存在しないのかを確かめる。



「……全部、オークの骨だ。あいつら、共食いしているのか」



骨の山には人間らしき死体は見つからず、その全てがオークである事が発覚する。理由は不明だが大迷宮の各階層には魔物は「1種類」に固定されており、生息している魔物達は同族を共食いしながら暮らしているとしか考えられない。



「き、霧崎君……ここ、凄く臭いよ」

「我慢して……もう少し調べたい」

「ぷるるっ」



化石の内部を調べようとしたレアの肩にライムが飛び移り、彼の頬に頭を摺り寄せて「あれ見てっ」という風に首を動かす動作を行う。何か発見したのかとレアは視線を向けると、ライムが発見したのは地面に刻まれた「魔法陣」だった。



「これは……!?」

「あっ!?こ、これだよ霧崎君!!この魔法陣の上に乗ったら急に移動しちゃったの!!私も上の階層で踏んで気付いたら違う場所に居たもん!!」

「どうしてそんな物がここに……」



化石の内部に存在する魔法陣に雛が驚愕の声を上げ、彼女は第三階層で同じ紋様の魔法陣に足を踏み入れてしまったせいで第二階層に転送されてしまう。彼女と同様に考も第三階層の魔法陣に踏み入った事で第二階層のオークの住処に移動してしまった事をレアは思い出す。



「という事はこの魔法陣も罠なのか……いや、もしかしたら上の階層に繋がっているのか?」

「え?ど、どういう事?」

「つまり……鈴木さんの武器をオークキングが持っていたのは彼女が上の階層で雛達のように魔法陣の罠に引っ掛かって第二階層に移動したんじゃないのかな。そして移動先がこの魔法陣だった……とか?」

「ええっ!?で、でも私が移動した時は魔法陣なんて見当たらなかったよ?」

「そうか……だけど、試してみる価値はあるかな」



レナは意を決して魔法陣に入り込み、何が起きるのかを確かめるために彼はカラドボルグとデュランダルを握りしめる。

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