第51話 スライムの名前

「あ、ねえねえ霧崎君。皆を探す前にこの子に名前を付けない?」

「え?名前って……こいつに?」

「ぷるぷるっ」



捜索の際中に雛が自分の頭の上に存在するスライムを指差すと、名前という単語に反応したのかスライムは「名付けてっ」とばかりに全身を震わせる。その反応を見たレアは仕方なくスライムの名前を考える事にすると、先に雛が名前の候補を上げる。



「私はスライムのスラミンちゃんがいいと思うんだけど、どうかな?」

「スラミンか……どう?」

「ぷるんっ」

「お気に召さないみたいだけど……」

「え~」



雛の言葉にスライムは「やだっ」と頭を横に振る動作を行い、今度はレアが真っ先に思い付いた名前を口にする。



「スライム……スラリンはどう?」

「霧崎君、それは少しありきたりすぎるんじゃないかな……」

「ぷるぷるっ……」

「嫌か……わがままだな」



スライムが「もっと真面目に考えてよっ」とばかりに身体を震わせ、その後もレアと雛は適当な名前を告げたが、どれも気に入らないのかスライムは首を振る。だが、最後にレアが考えた名前に大きな反応を示す。



「う~んっ……スライム、スラ、スラオ……ライム?」

「ぷるぷるっ!!」

「え、今の名前がいいの?」



レアの呟きにスライムが「それっ」と告げるように激しく首を縦に振り、単純に「スライム」の頭の文字を抜いただけの名前だがスライムは嬉しそうに全身をくねらせる。



「じゃあ、今日からお前の名前はライムだ。もしも死んじゃったら教会で生き返らせないと……」

「えっと、無理だと思うけど……」

「ぷるぷるっ」

「うわっ……あんまりじゃれつくなよ」



嬉しそうにライムと名付けられたスライムは雛の頭の上からレアの肩に移動を行い、彼の頬に頭部を擦り付ける。自分に懐いてくれるのは構わないが移動の際中は擦り寄られると困るのでレアはライムを抱き上げ、雛に差し出す。



「ほら、ママの元に戻りなさい」

「ママ!?私がライムちゃんのママなのっ!?」

「だって雛が風呂場で生み出したんでしょ?それなら雛がママだと思ってるよこいつも」

「そ、そうなのかな……?」

「ぷるぷるっ」



ライムは甘えるように雛の胸元に頭部を移動させ、その行動に戸惑いながらも雛はライムを優しく抱き上げながら肉体を撫で回し、レアの方向に顔を向ける。



「じゃあ……私がママなら霧崎君がパパだよね?ほら、パパだよ~」

「ぷるるんっ」

「何でやねん」



仕返しとばかりに雛はレアを父親として紹介し、ライムも「お父さん?」と伝えるように首を傾げる。そんな雑談を繰り返しながら2人と1匹は移動を続けると、前方の方角に障害物を発見する。



「何だあれ……岩?」

「あっ!?あれだよ霧崎君!!私達が発見した化石!!」

「化石って……この白くてとんでもなくでかいのが!?」



レアの視界には巨大な白色の岩が映し出されるが、少し離れた場所で再確認を行うと確かに雛の言葉通りに巨大な生物の「化石」である事が発覚する。しかもレア達が発見したのは「頭部」と思われる部分だけであり、豚や猪を想像させる巨大な頭の化石が地面に放置されていた。



「ねっ!?凄く大きいでしょ?最初これを発見した時は皆凄く驚いていたんだからっ!!」

「確かに大きいな……何の生物だろう?本当に恐竜なのか……」

「ダガンさんの説明だと、もしかしたら突然変異で生まれたオークの死体かも知れないって……」

「オークって……このでかいのが!?」



頭部だけでも全長が10メートルは存在しそうな化石にレアは動揺を隠せず、もしもダガンの言葉が正しければ全長が数十メートルは存在する巨大なオークが実在した事になる。



「この世界にはこんなにでかい生き物もいるのか……急いで皆を連れて避難しないと……」

「あ、だけど転移門を使うには特別な石が必要だよ?私達はダガンさんが持ってたから転移出来たけど……」

「大丈夫、それは俺が何とかするから」



転移門に存在する転移魔法陣を発動させるには「転移石」と呼ばれる特別な魔石が必要だが、レアの文字変換の能力ならば作り出す事が出来る。本来は各階層に存在する特殊な魔物の死骸から入手できる仕組みだが、彼の場合は関係なく三文字の道具でがあれば転移石に変換できる。



「そういえば気になっていたんだけどさ……ダガンさんはこの大迷宮からの脱出方法を知ってるの?雛は聞いている?」

「あ、えっとね。実は私……」

「ぷるぷるっ!!」



レアの質問に雛が答えかけた時、唐突にライムが激しく震え出す。その行動に疑問を抱いたレアはライムが何かを伝えようとしている事に気付き、彼は前方に存在する化石を確認すると、眼球の隙間からこちらに向けて弓矢を構える存在が居る事に気付く。



「危ないっ!!」

「きゃあっ!?」



咄嗟にレアは雛を抱きかかえて地面に伏せると、彼女の頭部が先ほど存在した場所に矢が通り過ぎた。

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