第50話 捜索再開
「わわっ!?知らない場所に出た!?」
「いや、雛と最初に会った場所だよ。忘れちゃった?」
「ぷるぷるっ」
スライムを抱えた雛は転移の直後に驚きの声を上げるが、レアは即座に周囲の警戒を行う。雛が共に行動している以上は今まで以上に周囲に気を配りながら行動する必要があり、彼はアイテムボックスから拳銃を取り出して握りしめる。
「あ、そうだ。念のために雛にはこれを渡して置くよ」
「え、何?」
アイテムボックスを開いたレアは王城に存在した時に文字変換の能力で作り出して置いた伝説の防具を取り出す。彼が画面から出現させたのは銀色に光り輝く円形型の盾であり、全体が鏡のように磨かれて外部の景色を反射していた。この盾の名前は「アイギス」と呼ばれる初代勇者が作り出した盾の防具をレアが文字変換で再現した物になるが、聖剣を2つ装備している彼には扱えない代物なので雛に手渡す。
「これを持ってて」
「ええっ?わ、私が!?」
「大丈夫、その盾は頑丈だけど凄く軽いから」
最初にアイギスを作り出した時、彼は全長が50センチは存在する盾が誕生したので慌てふためいたが、その外見とは裏腹に非常に軽く、それでいながら聖剣の刃でさえも掠り傷を与える事も出来ない頑丈性を誇る。実際に受け取った雛は何事も無いように両手でアイギスを持ち上げて驚愕の表情を浮かべる。
「あれ?これ、凄く軽いね!!片手で持てるよ?」
「もしも魔物に襲われた時はそれで身を守って。レベルの制限で盾の力は使えないだろうけど……」
カラドボルグとデュランダルと同様にアイギスも一定のレベルに到達していなければ性能を完全に引き出せる事は出来ず、これまでレアが作り上げた全ての聖剣や防具には「レベル70」を下回る人間には力を使いこなせないように制限が設けられていた。ちなみに「妖刀ムラマサ」のような武具は勇者が制作に関わっていない武器には制限は存在せず、妖刀の場合は刀を振り回せる筋力さえ存在すれば誰でも扱える。
「そういえば高山の奴が作った妖刀を放置したままだったな……まあ、別に大丈夫かな。時間が経てば消えるだろうし……」
「これからどうするの霧崎君?」
「とりあえずは第三階層に繋がる場所を探そう。他の皆はまだ第三階層に残っているかも知れないし……見つからなかったら一度戻ろう」
「瞬君……それに茂君も大丈夫かな」
「分からない……ダガンさんや金木さん達も心配だし、先を急ごう」
「ぷるるんっ」
雛とスライムを引き連れたレアは高山と遭遇した岩山とは別の方角に移動を行う。彼が雛に訪ねた所、彼が発見した岩山に関しては彼女も見覚えが無い事が判明し、2人と1匹は荒野を当てもなく彷徨う。
「暑いねぇ~……上着脱ごうかな」
「俺が預かろうか?あ、いや……アイテムボックスに」
「あ、大丈夫だよ。実は私もアイテムボックスを覚えてるんだ」
「へえっ……」
意外な事に雛もSPを使用してスキルを習得していたらしく、彼女は何もない空間に上着を放り込むと空中で消え去る。その光景にレアは自分もアイテムボックスを使用するときは彼女のように他の人間には見えない場所から物体を取り出している事に気付き、アイテムボックスの画面は使用者にしか見えない事が判明した。
「雛は何レベルなの?」
「私?私は18だよ。ここまでくる間にいっぱい魔法を使ったからね。勇者の中では一番高いって言われたよ?」
「そうなのか……」
「霧崎君は何レベル?」
「俺は……26だよ」
「え、凄いっ!!私より高いんだ!?」
雛の問い掛けにレアは自分のステータス画面を核にして答えると彼女は驚愕の声を上げるが、実際の所はレア自身も何時の間にかレベルが上昇していた事に戸惑う。地下の階層を抜け出した時から彼は相当なレベルに達していたが、これまでにゴブリンとオークを十数体倒した事でレベルがさらに上がっていた事に驚く。
「もしかしたら付与魔術師はレベルが上がりやすいのかな……そういえば雛は今はどれくらいの魔法が使えるの?」
「色々と覚えたけど、今は下位の砲撃魔法しか使ってないよ。レベルが低い内に威力が高い魔法は危険だからってダガンさんに言われたから……」
「そうなのか……一応は聞くけど、間違って味方に当てた事はないよね?」
「当てないよっ!?」
「ぷるぷるっ」
手元を狂わせて雛が味方に攻撃魔法を施す光景を想像したレアは彼女から若干距離を取り、スライムも彼の頭の上に移動する。雛に渡した「アイギス」は自分が身に付けるべきではないかと本気で心配しながらもレアは他の人間の捜索を続ける。
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