第49話 日付更新

「今は……もうすぐ日付を迎えるな」

「あ、そうだ。霧崎君、ここの時計皆壊れていると思うよ?だって、私が持っているスマートフォンと全然違うもん」

「え?も、もう朝じゃないのか?」



レアが時計を確認すると間もなく日付を迎えようとしており、雛と考は時計を見て困惑した表情を浮かべる。レアの予測通り、こちらの地下の階層と外の時間の流れが違う事は間違いなく、彼の予想ではこの地下階層の「1日」が外の世界では「1時間」だと思われた。



「卯月さん……いや、ひよこさん」

「雛だよっ!?」

「あ、素で間違えた……雛さん」

「雛でいいよ~?」

「じゃあ、雛。俺が戻ってくるまでどれくらい時間が掛かってた?」

「え?あ、えっとね……確かお昼の12時ぐらいに霧崎君が消えちゃったから……半日ぐらい?その間、ずっとスライムちゃんと遊んでたよ」

「ぷるぷるっ」



雛の返答を聞いたレアは自分の予想通りに時間が過ぎている事を確信し、彼は考の捜索の為に第二階層にて「30分」程度の時間を費やしたが、地下の階層に存在した雛は「半日」も過ごしたと告げる。この事から雛が嘘を吐いていない限りは地下の階層と地上の階層の時間の流れが違う事は間違いなく、レアは日付を完全に迎えたのを確認すると「文字変換」の能力を確認して使用できる文字数が「9文字」に戻っている事を確認する。



「よし……理由は分からないけど、やっぱりこっちと外の世界の時間の流れは違うみたいだ」

「え?」

「な、何の話だよ?」

「お前はここで休んでろ。たくっ……後でお前の分も家を用意してやるから」

「家!?」



驚愕する考を無視しながらレアは今後の行動を考え、文字数が回復した以上は今すぐにでも行動するべきか考えたが、彼は第二階層から第三階層に通じる転移門の居場所を知らず、2人に問い質す。



「第二階層の転移門は何処にあるか知ってる?」

「えっと……ご、ごめんなさい。ずっとダガンさんの後に付いて行っただけだから道は覚えてないかも」

「俺もだ……だけど、確か転移門の近くにとんでもなくでかい魔物の骨が落ちていたと思う。それだけは俺も見覚えがある」

「あ、私も!!恐竜の化石みたいにすっごく大きな骨だったよ!!」

「化石……分かった。じゃあ、今から俺は外に行ってくる」

「ま、待てよ!!俺達はどうすればいいんだ!?」

「お前はここで休んでろよ。そんな身体じゃ動く事も難しいだろ……食料は勝手に冷蔵庫の中の物を食べていいから大人しくしてろ」

「あ、待って!!私も一緒に行くよ霧崎君!!」

「ぷるぷるっ」



同行を求めるように雛がレアの腕に抱き着き、彼女の頭の上に居たスライムも「着いていくっ」とばかりに縦に首を振る。二人の行動にレアは困惑するが、魔法が扱える雛は戦力になるのではないかと考え、考に視線を向けて彼に質問を行う。



「高山、お前はこの世界の伝説の武器や防具に詳しかったよな?」

「あ、ああ……それがどうした?」

「それならこっちの世界の魔術師の扱う武器……というか杖とか知らないの?」

「何でそんな事を……いや、そういう事か。お前、僕の武器制作の能力で卯月に杖を作らせる気だな!?」

「え?いや、別にそういう訳じゃ……」

「ちっ……分かったよ。どうせ今の僕は役立たずだからな。持っていけよ畜生!!」



レアの質問に勝手に勘違いした考は黙って考え込み、渋々と彼は両手を空中に差し出して自分の「武器制作」の加護の力を発動させる。



「聖杖アクスレピオス!!」

「うわっ!?」

「きゃっ!?」

「ぷるんっ!?」



一瞬だけ考の手元が光り輝き、彼の手元に蛇の形を模した白色の杖が握りしめられていた。先端には白色に光り輝く水晶玉が取り付けられており、神々しい雰囲気を纏っていた。



「ほら、これが僕の知っている限りの伝説の杖だよ……最もこっちの世界では回復魔導士の勇者が扱っていた杖らしいけどな」

「え?回復魔導士?」

「本当はこいつは回復特化の武器なんだよ。だけど、一応は杖なんだから他の魔法の補助も行えるだろ……ほら、持っていけよ」

「あ、ありがとう……うわぁっ……蛇さんだね」



雛は「聖杖アクスレピオス」を受け取ると、彼女は杖を握りしめながら不思議そうに蛇の装飾に視線を向け、考は一気に体力を消耗したようにソファに横たわる。



「俺はもう寝る……他の奴等を探すなら勝手にしろ」

「分かった。あ、それと念のために外に出ようとするなよ。ここは大丈夫だと思うけど、たまにスケルトンが現れるから……」

「…………」



レアの声を無視しているのか、それとも寝入ってしまったのか考はソファに横になると黙り込んでしまう。それを確認した二人は顔を見合わせ、スライムが「やれやれ」とばかりに首を横に振る。

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