第48話 高山の事情
「たくっ……死ぬかと思った」
「ううっ……」
倒れこんだ考の前にレアは移動を行い、彼が気絶している事を確認してから転移の魔法を発動させて起き上がらせようとした時、考が握りしめていた「妖刀ムラマサ」が地面に落ちている事に気付く。間違っても触れないように気を付けながらレアは考の肉体を持ち上げようとした時、唐突に地面に横たわっていた妖刀が激しく振動する。
「何だっ!?」
『血っ……血を寄越せぇっ……!!』
「喋った……!?」
妖刀から女性の声が響き渡り、刃に付着していた血液が刀身に飲み込まれるように消失する。その光景に危険を感じたレアは考を抱き上げ、避難を行う。
「転移!!」
『血を……寄越せぇっ――!!』
転移魔法陣が考を抱えたレアの足元に展開した瞬間、妖刀が空中に浮きあがり、二人の元に向けて移動する。刃がレアの肉体に触れる寸前、魔法陣が光り輝いてレアの視界が白色に染まる――
――次に彼の視界に映し出されたのは見覚えのある地下階層の「一軒家」の居間であり、最初に彼が目撃したのはソファの上に座っていた雛がスライムを膝の上に乗せた状態でスプーンでミルクを与えようとしている姿だった。
「ほ~ら、美味しいミルクだよ。いっぱい食べて大きくなろうね~」
「ぷるぷるっ……」
「美味しい?おかわりはいっぱいあるからね~」
「あの……それ、俺の家の牛乳なんだけど」
「あれ!?き、霧崎君!?やっと帰ってきたの!?」
レアが話しかけるとジャージから女物の衣服に着替えていた雛は驚愕の声を上げ、スライムは嬉しそうに彼女の膝の上から離れてレアの元に駆け付ける。彼を親か何かだと思い込んでいるのかスライムは胸元に飛び込んで「お帰りっ」と伝えるように顔の部分を見上げる。
「ただいま……これ、お土産」
「お土産?それって……わあっ!?た、高山君!?」
「ううっ……き、霧崎?それに卯月……さん」
「何で卯月さんだけさん付けなんだよ」
床に横たわる考に雛は驚きの声を上げ、彼女の声に反応したように考も目を覚ますが、まだ完全には意識が芽生えていないのか頭を抑えて机の上に置いてある牛乳が注げられた皿に視線を向け、勢いよく飲み込む。
「み、水……!!ぶはぁっ!?」
「あ、それっ!?」
「落ち着けっ!!卯月さん!!冷蔵庫から水を持ってきて!!」
「う、うん!!」
牛乳を飲み干そうとした考は途中で咽て机の上に吐き出してしまい、レアは彼の介抱を行いながら雛に指示を出す。彼女はすぐに冷蔵庫から水の入ったペットボトルを用意するとレアがゆっくりと彼に飲み込ませる。
「んぐっ……ぷはぁっ!!し、死ぬかと思った……」
「こっちも死にかけたよ馬鹿っ!!」
「ぐへっ!?」
水を飲んだ事で落ち着いた考に対し、レアは頭を軽く叩く。だが、レベルが上昇したせいで彼の身体能力も上昇しているのか本人は軽く叩いたつもりが予想外の威力に考は地面に倒れ込む。彼は鼻を抑えながら恨みがましくレアを睨みつけるが、レアとしては妖刀で殺されかけたばかりなので彼を許せるはずがない。
「お前なっ……また妖刀を作っただろ!!大変だったんだぞ!!」
「な、何の話だ?というか、ここは何処だ……俺は何をっ!?」
「話を反らすなっ!!さっき、俺を殺そうとしていただろ!!」
「さっき……あ、そ、そういえば俺……!?」
「お、落ち着いてよ二人とも!!喧嘩は駄目だよっ!!」
「ぷるぷるっ……」
考は先程までの自分の行動を思い出したのか顔色を変え、雛に抑えられたレアも冷静さを取り戻し、一先ずは考をソファに座らせる。仕方がないのでレアは彼に簡単な食事を与えて落ち着かせると、どのような経緯で第二階層で妖刀を振り回す結果になったのかを問い質す。
「高山、お前は第三階層に居たんじゃないのか?」
「お、お前こそ……どうして生きてるんだよ?落とし穴に落ちて死んだと思っていたのに……」
「こっちの質問に答えろ。お前のせいで2回も死にかけてるんだ……ぶっ飛ばすぞ」
「うっ……わ、悪かったよ」
流石に自分のせいで迷惑を掛けたことを理解しているのか高山はパンとカップスープを食べるのを中断して話を行う。第三階層で雛が告げた「牛の化物」とコボルトの群れに襲われた際、彼は他の人間とはぐれて逃げた所から話始める。
「お、俺は第三階層でコボルトの奴等に追いかけ回された。その時に転移門のような変な台座に刻まれた魔法陣を発見して乗り込んだら、気付いたら第二階層に戻ってたんだよ……今思えばあれは罠だったんだと思う。転移門と似ているから上の階層に移動すると思ったら、俺はオークの住処にしている洞窟に飛ばされていた」
「卯月さんが乗った奴かな?」
「でも私は洞窟なんて入っていないよ?」
考の言葉にレアは彼も雛のように下の階層に転移する魔法陣の台座を使用した事に気付き、雛が転移した場所とは一が違う事が気になるが彼も「罠」に嵌まって第二階層に移動した事は間違いない。
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