第44話 焚火の謎

「途中で何度か焚き火を見つけたけど、あれは卯月さん達の?」

「えっ?焚き火?ううんっ……何度か休憩はしたけど、私達は焚き火なんてしてないよ?」

「えっ!?」

「あ、でもダガンさんが大迷宮には色んな人達が訪れるから、人間が居た痕跡が残っていても可笑しくないと言ってたような……でも半年前からこの大迷宮には誰も入っていない事も言ってた気がするけど……」

「半年前……!?」



レアは度々見つけた焚き火の痕跡を思い返し、最後に発見した第二階層は間違いなく最近に作り出されたばかりだと確信していた。しかし、卯月によれば彼女達は一度も焚き火を行っていないと話す。それならばレアが発見した最後の焚き火に関しては疑問が残り、レア達以外の何者かが焚き火を作り出した後に立ち去ったとしか考えられなかった。


最後に発見した焚き火の側にはオークが丸々一頭捕食された痕跡が残っており、レアが見つけた時には間違いなく焚き火の煙と血の臭いが消えていなかった。この事から考えると焚火を作り出した人間があの場所の近くに存在した可能性は高く、レアはダガン達だと思い込んでいたが、実際には彼等ではない第三者である事に気付く。



「卯月さん!!俺達以外に人間とは会った?」

「ええっ!?だ、誰とも会ってないよ?」

「そんなっ……という事は誰があの焚火を……」

「あ、あのね霧崎君……ちょっとお願いがあるんだけど」



雛は言いにくそうに身体を抱き寄せる仕草を行い、自分の服の臭いを嗅いで眉を顰める。すぐにレアは彼女の行動の意図を察し、仕方なく話は後で聞く事に決めて彼女に頷く。



「お風呂に入りたいならそこを右に曲がって突き進めばいいよ。着替えは……ジャージぐらいしかないけどいいかな?」

「ううっ……ご、ごめんね?だけど昨日からずっとお風呂に入っていなくて気持ち悪くて……」

「気にしないでいいよ。ご飯の用意もしておくから、それと卯月さんの家も用意しないとな……」

「家?」

「いや……まあ、後で詳しく説明するからお風呂に入って来なよ。着替えは後で洗面所に用意しておくから」

「ありがとう……その、出来れば下着とかは……」

「流石にそこまでは用意できないよ……」

「ううっ……だよね」



服の類はともかく、レアが作り出した家の中には女性物の下着は存在しないため、雛は恥ずかし気に風呂場に向かう。



「さてと……とりあえず、これでいいかな」



雛が風呂から上がる前に彼女が住む家を用意するため、レアは食器棚から「皿」を取り出すと外に移動する。念のために自分が最初に作り出した家から距離を取り、文字変換の能力を発動させて彼は卯月が住みやすそうな「家」を作り上げる。



「これでどうだ?」



鑑定の能力を発動させて地面に落ちた「皿」を「家」に文字変換を行うと、皿が発光を始めて形状の変化を始める。慌ててレアは距離を取ると彼が最初に作り出した「一軒家」と比べると小柄な木造製の家が誕生し、外見は「ログハウス」と酷似していた。



「あれ?文字数が少ないと作り出せる家も違うのかな……」



念のために彼は家の中に入り込むと最初に作り出した家のように家具の類は一通り揃っており、更に雛のために家を作り出すと強く念じていたのが原因なのかクローゼットやタンスの中に女性用の服と下着を発見する。流石に彼女に渡す訳には行かないのでレアは後で本人に伝える事を決め、一先ずはクローゼットの中に存在した女性用のジャージを取り出して家に戻る。



「漫画とかのテンプレではここで俺が風呂を覗こうとして卯月さんに怒られるという展開だな……まあ、命が惜しいからやらないけど」



やっと自分以外の人間と遭遇した事で心の余裕が出来たのか、レアは普段の自分ならば考え付かない事を言葉にしながらジャージを洗面所に運び込もうとした時、浴槽から雛の悲鳴が響き渡る。



『きゃああっ!?』

「卯月さん!?」



唐突に風呂場から雛の悲鳴が聞こえ、レアはジャージを床に落として駆けつけようとした時、内側から扉が開いて真っ裸の雛が彼に抱き着く。



「にゃああっ!?き、霧崎くぅんっ!!」

「うわぁっ!?ちょ、どうしたの!?」



裸で抱き着いてきた雛にレアは慌てふためくが、彼女は涙目で風呂場の方を指差す。レアは裸の彼女の肉体の感触を直に味わいながらも視線を向けると、風呂の湯舟に奇妙な存在が浮いている事に気付いた。



『ぷるぷるっ……』

「……え、何あれ……ぷるぷる言ってるんだけど」

「わ、分かんないよ!!急にお風呂に入っているときに出てきたんだからぁっ!!」



湯舟に浮かんでいたのはバスケットボール程の大きさが存在する青色の物体であり、形状は球体だが全身を小刻みに震わせており、表面には目と口のような窪みが存在する事から生物だと判断したレアは「鑑定」の能力を発動させて様子を調べる。



『スライム(原種)――魔物ではあるが人間に害は与えず、水場さえ存在すればどのような環境でも適応できる液状生物』



RPGの世界では最も有名な魔物の名前が表示され、レアは恐る恐る雛から離れて風呂場に入り込み、湯舟を楽しむように浮かんでいるスライムに触れる。表面は意外な事に暖かく、シリコンのように柔らかな感触が広がり、彼はスライムを持ち上げて視線を合わせる。



「な、何だこいつ……ちょっと可愛い」

『ぷるぷるっ』



スライムはレアの言葉を理解できるのか嬉しそうな表情を浮かべ、身体を小刻みに揺らす。




※私の作品では定番のスライムです。それと新作の「最弱職の初級魔導士ですが、初級魔法を極めたら何時の間にか「千の魔術師」と呼ばれていました」を投稿しています。リメイク版なので以前に投稿していた作品の設定を受け継いでいます。

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