第42話 オーク

「暑いな……上着脱ごうかな」



レアが第二階層である「荒野」に辿り着いてから数分が経過し、殺風景な風景に飽きながらも彼はダガン達の捜索と転移の台座が存在した建物を探す。既に他の人間とはぐれてから数日が経過しており、既に他の人間が上の階層に移動している可能性も高く、彼はダガン達の痕跡を探しながらも周囲に落ちている魔物の骨に視線を向ける。



「スケルトン……じゃないよな」



この階層に盛装しているオークの死体と思われる骨が散乱しており、既にレアは地下の階層でスケルトンと化したオークと戦闘は行っている。だが、聖剣に聖属性の付与魔法を施した攻撃は一撃必殺と言っても過言ではない威力を誇るため、どんなスケルトンも彼は一撃で倒していたのでオークのスケルトンもどの程度の戦闘力を所持していたのかは彼も分からなかった。



「そもそもスケルトンと生きているオークはどう違うのかな……ゲームだと何となくだけどアンデットになったらもっと強くなっているパターンが多いけど、実際の所は筋肉が付いている分だけ生身の方が強かったりして……おっ?」



前方の方角から煙が上がっている事に気付き、慌ててレアは近づくと先ほどまで使用していたと考えられる焚火を発見する。先程まで火が付いていたのは間違いなく、燃え尽きた薪から煙が噴き上げていた。



「皆が近くにいるんだ!!一体どこに……あれ、どうして焚火の近くにオークの骨が転がっているんだ……?」



何故か焚火の傍にはオーク1頭の骨が転がっており、未だに血の痕と臭いが骨に残っている事からレアは冷や汗を流しながら骨を拾い上げ、日で炙ったように焼け焦げた箇所が存在する事に気付く。この事から彼はこの場で焚火を行った物が「オーク」を捕食した事を察する。



「食ったの!?魔物をっ!?いや、こっちの世界では当たり前なのかな……」



レアが王城に存在した時も彼が食事していた料理の中には見た事もない食材も含まれていた事を思い出し、こちらの世界では魔物を食べる事は普通である可能性もあった。そう考えれば別にそれほど可笑しくはないが、ダガンはともかく他の勇者達が抵抗なく魔物の肉を調理して食事を行ったのか疑問を抱く。



「大木田君はともかく、鈴木さんや高山君や金木さん達は食べる事を抵抗しそうだけどな……背に腹は代えられなかったのかな。だけど真面な調理器具もないのに食べて大丈夫なのかな……寄生虫とか」



こちらの世界に寄生虫のような存在がいるのかは不明だが、レアは勇者達が真面な食事を行っているとは思えず、彼等の姿を探す。焚火の痕跡から考えてもそれほど遠くない場所にダガン達が居る可能性があり、彼は大声を上げて名前を叫ぼうとした時、背後から物音を耳にする。



「プギィイイイイッ!!」

「えっ……うわっ!?」



豚や猪のような鳴き声が聞こえてレアは振り返ると、唐突に骨で構成された槍が突き出され、彼は咄嗟に背後に移動して回避する。攻撃を仕掛けてきたのは身長が2メートルを超える猪の顔面に全身が分厚い体毛に覆われた人型の生物であり、即座にレアはデュランダルを引き抜く。



「お前がオークか!!」

「ブヒィッ!!」

「うわ、ちょ、それは反則!?」



剣よりもリーチが長い槍をオークは幾度も突き出し、その攻撃を回避しながらレアは聖剣に雷属性の付与魔法を発動させ、相手に向けて距離が存在するにも関わらずに刃を突き出す。



「雷属性エンチャント!!」

「プギャアアアアッ!?」



刃に纏わせた電流を解き放ち、オークの肉体を感電させる。武器のリーチは相手が上だとしてもレアは電撃を放出する事が可能であり、オークは落雷を受けたように倒れこむ。その光景にレアは安堵の息を吐き出し、地面に落ちた槍に視線を向ける。



「自分で武器を作り出したのか?ゴブリンより頭が良いんじゃないか……だけど同族の骨で槍を作るって……」



幾つもの骨を削り取ってロープの代わりに蔦のような植物で骨同士を巻き付けて作り出された槍を拾い上げ、激しく痙攣するオークに視線を向けながらレアは汗を流す。魔力は問題ないが慣れない環境に体力が消耗しているのか彼は他の人間を探す前に休憩を行おうとした時、何処から悲鳴が聞こえた。




――た、助けてぇえええっ……!!




聞き覚えのある女子の声がレアの耳に届き、すぐに彼は声の主が「卯月 雛」だと気付くと彼は声のした方角に振り替えり、異様な光景を目撃してしまう。



「いやぁああああっ!!」

『プギィイイイイッ!!』

「ええっ!?」



自分が立っている場所に大量のオークに追いかけられた雛が接近している事にレアは驚愕し、彼女は涙目で折れた杖を握りしめながら全力疾走で駆け抜けていた。

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