第40話 ゴブリンなど敵ではない
――翌日の朝、レアは目覚まし時計に起こされると眠気覚ましにシャワーを浴び、軽い朝食を取る。そして文字変換の能力を発動させ、彼は「転移」の能力の説明文の変換を行う。
「回数を増やすより、この1日の部分を変えてみるか」
単純に転移の使用回数を増やすのではなく、制限されている時間を変更させるためにレアは転移の能力の説明文を変化させる。
『転移――転移魔法を発動させ、自分の一度訪れた場所に移動出来るが距離に関係なく魔力を完全に回復する。1秒に1度しか使用できない(使用可能)』
説明文の「1日」を「1秒」に変更させ、早速効果を試す為にレアは家の中で転移を発動させる。移動先はゴブリンの住処である大迷宮の第一階層であり、彼は成功する事を願って能力を使用する。
「転移!!」
次の瞬間、レアの足元の地面に魔法陣が誕生し、一瞬にして彼の肉体が魔法陣から発せられる光に包み込まれる。そしてレアの視界から光が消失すると、彼は自分が無事に大迷宮の第一階層である「草原」に無事に移動した事を確信した。
「間違いない……戻ってきたんだ!!」
レアは自分が無事に第一階層に戻って来た事に感動し、同時に今回は転移を使用した時の魔力の消失を感じられず、無事に能力の改造に成功した事を確認する。今後は殆ど無制限に転移の能力を発動する事が可能となり、しかも能力の発動の度に魔力が回復するため、レアは付与魔法の使用で魔力を消耗したとしても即座に魔力を完全に回復する手段も身に付けた事になる。
「この階層はゴブリンしかいないしな……聖剣に頼りっぱなしというのあれだし、ここからは付与魔法だけで何処まで出来るか試すか」
大迷宮の第一階層にはゴブリンしか生息せず、魔物の中では力が弱いが集団で襲い掛かる習性を持つ厄介な敵だが、既にレアは最初に大迷宮に入り込んだ時にゴブリンとの戦闘を経験している。彼はゴブリンが相手ならば聖剣は必要ないと判断し、付与魔法を利用した「魔装術」だけで対応できると判断して聖剣をアイテムボックスに保管したまま移動を開始する。
「お、早速お出ましか……」
『ギィイイイイッ!!』
移動を開始して早々にレアの前方と後方の方角からゴブリンの群れが出現し、即座に彼も戦闘体勢に入る。右手に「風属性」左手に「雷属性」の付与魔法を発動させ、ボクシングのようにフットワークを使いながら接近してくるゴブリンに向けて彼は攻撃を行う。
「おらぁっ!!」
「ギャアアアアッ!?」
「アガガガガッ!?」
竜巻を纏った右拳に触れたゴブリンは触れた瞬間に身体を切り裂かれながら吹き飛ばされ、高圧電流を纏った左拳に触れたゴブリンは一瞬にして黒焦げを貸す。熟練度を高めたお陰で付与魔法も強化されており、レアは試しに「連撃」のスキルを発動させる。
「連撃!!」
「グギャッ!?」
「アガァッ!?」
「ギャウッ!?」
レアの前方に存在した3体のゴブリンが衝撃を受けたように同時に吹き飛び、その直後にレアは両手で殴り込んだ感触が広がる。固有スキルではあるが「連撃」は戦技のように発動する事が可能であり、現在の彼の熟練度は「5」なので攻撃回数は5回まで増加していた。
「うっ……結構体力を使うなっ!!」
「ゴガァッ!?」
後方から襲い掛かろうとした最後のゴブリンに腹部に蹴りを叩き込み、レアは魔装術を解除して一息吐きだす。レベル24の彼の蹴りを受けたゴブリンは血反吐を吐き散らしながら地面に倒れこみ、やがて絶命する。魔術師の職業の人間は身体能力が低いと言ってもレベルが20台ならばゴブリン程度の敵は素手でも対応する事が可能らしく、一先ずは聖剣無しでも戦闘を乗り越えた事にレアは安心する。
「聖剣を使えば楽だけど、せっかく格闘家の職業も覚えたからな……それに体力も身に付けないと」
ダガンの地獄のトレーニングを乗り越えた事でレアも体力は身に付いてはいるが、それでも一人で魔物と戦い続ける事は身体に大きな負担を掛けるため、彼は素手で戦闘を繰り返す事で地道に体力を伸ばす事を決める。聖剣を使用すれば楽に敵を倒せるが、あまりに武器頼りの戦闘に慣れるのは不味いと判断し、自分の能力だけで対応できる敵は自力で倒す事を心に決めながらレアは移動を再開する。
「皆は何処かな……もしかして先に行ったのかな?」
草原を見渡す限りでは人影は見つからず、周囲の警戒を怠らずにレアは草原を移動すると人間が作り出したと思われる焚火の痕跡を発見した。
「これは……きっと皆が作った焚火だ!!という事はここを通ったのは間違いないな……こっちか」
焚火の痕跡からダガン達の移動方向を予測し、皆と合流するためにレアは急いで移動を行う。既に他の人間と別れてから数日が経過しており、下手をしたらダガン達が大迷宮を脱出した可能性もあるが、その場合は転移の能力で大迷宮の外に移動すれば問題はない。
レアが心配しているのはダガン達が大迷宮の内部で未だに取り残されている可能性であり、彼等と合流すれば自分の能力で共に安全な場所に避難できるため、彼は急いでダガン達の追跡を行う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます