第39話 転移のスキル

「――それなりに見覚えのある天井だ」



レアは最初に視界に移った景色に感想を述べ、自分が大迷宮に作り出した家の中に無事に転移した事を知る。彼が移動したのは彼が寝泊まりを行っている部屋であり、安堵の息を吐きながらベッドに座り込む。



「成功したようだな……だけど、結構きついな……」



魔力を大幅に消耗した影響でレアは頭痛を覚え、疲労感が身体に襲い掛かる。距離的には1キロにも満たない距離を移動したにも関わらず、彼は体育の授業でマラソンを終えた時のように身体に疲労が蓄積されている事に気付く。新しく生み出した「転移」の戦技は魔力と体力を説明文通りに大幅に消耗する事が発覚する。



「今日はもう休むか……風呂に入るのもだるい」




――睡魔に襲われて眠気に耐えられずにレアはベッドの上に横たわり、身体を休める事にした。次に彼が起きた時は既に日付が切り替わっており、食欲に抗えずにレアは本当は昨日の昼食の為に用意していた弁当を食す。




「ふうっ……眠ったら大分楽になったな。だけど、やっぱり今の状態だと危険だなこのスキル……」



サンドイッチを食しながらステータス画面を開き、戦技の項目に存在する「転移」の説明文に視線を向けながらレアは指先を近づけ、文字変換の能力で早速使用条件の変更を行う。



「まずは「大幅」の文字を変えてみるか……いや、いっその事「消費」の文字を変えてみるか?例えば「増大」とか……でも大丈夫かな。下手に魔力を増加させて身体に影響が出ないのかな……」



レアの脳裏に大量の魔力が自分の体内に送り込まれ、膨らんだ風船のように破裂する光景が思い浮かぶ。絶対に起きない現象とは言い切れず、彼は転移の説明文をどのように変化させるのか真剣に考える。



「増大じゃなくて「回復」なら問題ないかな……回復という文字なら身体に悪影響が生まれるとは考えにくいし、それに大幅の文字を「完全」にいいか」



彼は色々と考えた末、転異の説明文を自分の考えた文章に変更させる。結果としてレアが使用した文字数は「9」であり、説明文の変更を決定した。



『転移――転移魔法を発動させ、自分の一度訪れた場所に移動出来るが距離に関係なく魔力を完全に回復する。1日に1度しか使用できない(使用可能)』



説明文を変更した箇所は「大幅」を「完全」さらに「消費」を「回復」そして「が遠い程に」を「に関係なく」であり、これによって転移の能力が大幅に改善される。



「少し文章がおかしいけど、これなら問題ないかな。あ、それとこっちの能力も日付を迎えれば使用できるのか……これならデメリットもなく移動できるな」



レアは転移の能力を確認し、早速能力を使用して大迷宮の第一階層を思い浮かべる。転移に成功すれば現在の階層よりは安全だと思われる第一階層に移動し、分かれてしまった勇者達と遭遇出来る可能性もある。しかし、既にレアが地下の階層に移動してから数日が経過しており、未だに勇者達が第一階層に存在するとは限らない。



「転移の能力を発動させたら明日の深夜までは使えないしな……今日まではここに泊まって明日の朝に出発するか」



他の勇者クラスメイトとダガンと合流するのも大事だが、単独行動で動く場合は移動や休憩の際も常に魔物の警戒を行わなければならず、仲間と合流するまでは油断できない。それでも現在の改装でレアのレベルも大分上昇しており、しかも転移の能力を使用すれば何時でも現在の家に戻る事も出来る。



「明日の朝に今度は転移の使用回数を増やすか。その間に皆と会った時のために食料や水を用意しとかないと……」



別れてしまった勇者達がどのような行動を取っているのかはレアには分からないが、この大迷宮の内部で真面な食事を行えるとは思えず、彼は再会した時に他の皆のために自分の作った料理を振る舞うため、まずは冷蔵庫の食材を利用して料理を行う事に決めた。



「こんな場所じゃ碌な食材も取れないだろうし……皆が喜びそうな物を作らないとな」



彼は文字変換の能力で確保した食材を確認し、全員分の食事を用意出来る事を確認すると無難に「カレー」を作る事を決めた。大抵の人間の好物であり、念のために辛味と甘味のカレーを作り出す。食料を生み出した時に調味料の類も共に誕生しており、レアは他の人間達のために料理の準備を行う。



「それとこの広間に皆を避難させる場合も考えて余分に「家」を作っておくか……卯月さん達もいるし、女子用と男子用の建物を用意するか」



現在レアが滞在している場所には理由は不明だが魔物が近寄らない安全地帯であり、彼は明日に出発する前に新しい家を用意する事を決めた。今回は「一軒家」ではなく「家」という単語だけで文字変換の能力を試す事を決め、彼は準備に取り掛かった――

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