第37話 重ね掛け

「あ、危なかった……本当に殺されるかと思った」



倒した死喰人の下に視線を向け、レアは安堵の息を吐き出す。すぐに蹴り込まれた足を確認すると赤色の痣が生まれており、異世界に訪れてから初めての魔物による攻撃を受けた衝撃も大きく、彼は聖属性の付与魔法を発動させて回復を試みる。



「流石に油断しすぎたな……聖剣がなければ殺されてたな」



聖剣という存在が無ければ死喰人に殺害されていた可能性があり、レアは自分自身が知らない内に心の何処かで慢心していた事に気付き、自分の行動に反省する。幾ら聖剣の力と聖属性の付与魔法が死霊系の魔物に効果的だとしても攻撃を当てられなければ倒す事は出来ず、当然だが反撃を受ける機会も与えてしまう。



「幾らレベルが上がっても俺自身が戦闘に慣れないと駄目だな……能力だけを伸ばしても扱える技術が無ければ意味はないか」



デュランダルとカラドボルグに視線を向け、彼は本格的に剣術を身に付ける事を決める。最もこの状況では他人に剣の指導を受ける事は出来ず、自力で剣の使い方を模索する必要があり、レアは戦闘を繰り返す事で自分なりの剣技を身に付ける事を決める。彼の場合はSPを利用して剣士の技能や戦技を覚える事も出来るため、明日以降は剣士のスキルを重点的に覚える事を決める。



「それと武器が無い状態の戦闘法も身に付けるか……そういえば格闘家のスキルを全然使っていないな」



レアは副職の項目に格闘家を身に付けているにも関わらず、現在の階層に降りてからは自分が聖剣ばかり使用している事に気付き、今後の事を考えて聖剣を身に付けていない状態でも戦う手段を考える必要があった。



「あ、こいつ経験値大量に持ってたんだな。一気に23に上がってる」



自分のステータスを確認しながらレアは今の内に文字変換を利用してSPを増加させる事を考えたが、もう少しだけ自力で剣の扱い方を見極めたいと考えた彼は画面を閉じて探索を開始する。既に朝に固有スキルの条件を変更するために文字変換の能力を使用しており、万が一の場合を考えて探索中は無暗に能力を使用しない事を決めてレアは移動を再開する。



「この通路は外れか……あれ、何だこれ?」



死喰人の死体に落ちているマントを拾い上げ、レアは試しに「鑑定」の能力を発動させると只のマントではない事が発覚し、この世界に存在する「魔道具アイテム」と呼ばれる魔法の力を宿した道具だと判明した。



『亡者の外套――死喰人の魔力を帯びた装備品。身に付けると呪われる』

「いるかこんな物っ!!触っちゃったじゃんっ!?」



握りしめているマントに向けてレアは火属性の付与魔法で焼き払おうとした時、彼は先程の死喰人に雷属性の付与魔法で電撃を与えたにも関わらずに身に付けていたマントが焦げていない事に気付き、試しに彼は地面にマントを置いた状態で聖剣を構える。



「そういえばさっきは聖属性と雷属性を同時に付与させたよな……熟練度が上がったお陰かな?」



今までは物体に付与させる属性は1つだけだったが、先ほどの戦闘では2つの属性の魔法を付与させた事に成功した事を思い出すが、まずは「死者の外套」という名前の魔道具の「呪い」を浄化できないのかを試す。



「聖属性!!」



直接触れずに聖剣の刃に聖属性の付与魔法を発動させ、マントに刃を当てる。最初は特に反応はなかったが、時間が経過する事に先ほどの死喰人のようにマントから黒色の煙が発生し、レアは決して吸い込まないように気を付けながら刃を通して聖属性の魔力を送り続ける。



「……お、色が変わった?」



最初は灰色だったマントが徐々に汚れが落ちるように白色のマントに変化を果たし、レアはもう一度「鑑定」のスキルを発動させると説明文に変化が起きていた。



『聖人の外套――聖属性の魔力を帯びた外套。身に付けているだけで体力が徐々に回復する』

「あ、説明文が変わってる?」



先程は「死者の外套」と描かれていたマントが「聖人の外套」に変化しており、死喰人が身に付けていた事で死霊の魔力を帯びた事で効果が変化していた可能性があり、レアの付与魔法によって死霊の魔力が浄化されて元の魔道具に戻った可能性が高い。



「こいつは便利そうだな。だけど、さっきまでこいつが来てたんだよなこれ……」



レアは塵の山と化した死喰人に視線を向けれ、死霊の装備品を身体に身に付ける事を躊躇したが、鑑定の結果を見る限りでは地味に高い効果を施す魔道具である事は確かのため、彼は覚悟を決めてマントを身に纏う。



「戦利品だな……意外と着心地が良いな」



大迷宮の内部はレアが少し暑く感じるぐらいの気温だが、不思議な事にマントを身に付けても嫌な暑さは感じず、彼は不思議に思いながらも次の通路の探索に向かう。

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