第36話 死喰人

「行ってきます」



全ての準備を整えたレアは対に家の中から抜け出すと、再び魔物が巣食う大迷宮に赴く。彼は広場に存在する自分の作り出した家に視線を向け、名案というよりは迷案を思い付く。



「あれ?もしかしてこの家って……いや、今は余計なことを考えずに先に進もう」



レアは広間に存在する家を自分の能力を利用すれば移動できるのではないかと考えたが、もしもこの場所に人間が訪れた時を考え、家の鍵を開けた状態で彼は探索に集中する。3つの通路の内に彼が選んだのは右の通路であり、カラドボルグとデュランダルを腰に差しながら移動する。



「皆は無事かな……戻れることが出来たら大臣はぶっ飛ばしてやる」



皮肉にもレアは強制的に大迷宮に送り込まれた事でレベルも上がっており、更に複数のスキルも覚えているので大迷宮に入る前と比べると確実に成長している。最も現在の階層の脱出手段を見つけなければウサンに復讐も行えないため、レアは一刻も早く抜け出すために探索を進める。



「あれ?行き止まり?」



だが、右側の通路を移動してから数分後、彼は他に繋がる通路を発見しないまま突き当りに辿り着く。途中で別の通路に繋がる場所は見かけておらず、仕方ないので引き返して別の通路を進もうとレアが閑雅た時、彼は行き止まりの壁に違和感を感じると「観察眼」という観察力を高めるスキルを発動させた瞬間、妙に表面が滑らかな煉瓦が一つ存在する事に気付く。



「仕掛けか?ここを押し込めば別の通路が現れたりして……」



念のためにレアは聖剣の鞘で煉瓦に触れた瞬間、壁の奥に押し込める事に気付き、力を込めて煉瓦を壁の中に押し込む。だいたい50センチ程奥まで押し込んだ瞬間、通路の後方から騒音が響き渡る。



「やった!!やっぱり隠し通路……えっ!?」



振り返ったレアは歓喜の声を上げたが、彼の予想に反して壁際に変化は存在せず、代わりに通路の地面の一部が沈み込み、人間一人が飲み込める程の落とし穴が形成される。そして穴の中から土煙が舞い上がり、内部から腐敗臭と共に全身をマントで覆い隠した謎の人物が姿を現す。



「人間!?いやっ、この臭いっ……!?」



レアは落とし穴から現れたのが人間かと驚いたが、すぐに腐敗臭の正体がマントで覆い隠した人物から発せられている事に気付き、両手に聖剣を構える。相手は武器を構えたレアにマントを翻して身体を晒す。



「グァアアアアアッ!!」

「ゾンビッ……!?」



マントの中身は全身の皮膚を腐らせた裸の男性であり、顔面の半分の皮膚が剥がれ落ちた状態で両手を広げながらレアに襲い掛かる。両目の眼球は存在せず、それでも瞼を開いてレアの立っている正確な位置を探って飛び掛かる。



「くそっ……鑑定!!」

『死喰人グール――生前に強力な魔力を宿していた人間のみが変異する死人。他の死体を食い漁り、能力を強化する』



相手の正体を探るためにレアは鑑定のスキルを発動させ、相手の正体が「死喰人」と呼ばれる存在だと見抜くと聖剣を構え、付与魔法を発動させて剣を振り翳す。



「聖属性エンチャント!!」

「ウオオッ……!?」



柄越しに聖属性の魔力を流し込み、瞬時に彼は聖剣の刃に聖属性の魔力を纏わせる。今までは刃に掌を構えて直接魔法を施すしかなかったが、熟練度が向上して魔法の効果と技術が高まったお陰により、現在では剣を握りしめた状態でも付与強化を施せる程に成長していた。



「このぉっ!!」

「オアアッ!?」



レアは死喰人に向けてデュランダルの刃を突き刺すが、肉体に刃が届く前に相手は後方に移動して回避を行い、見かけに反して俊敏な動作でレアの周囲を移動する。



「くそっ……すばしっこいなっ!!」

「ウアッ……」



今度はカラドボルグで振り払うが死喰人は身を屈めて回避すると、レアの足元に蹴りを繰り出す。スケルトンが相手ではあり得ない反撃に反応し切れず、右足を蹴りつけられたレアは想像以上の衝撃に膝を崩す。



「あいたぁっ!?」



流石に骨に影響が出る程の攻撃ではなかったが、それでも立ち尽くす事が出来ない程の衝撃を受け、咄嗟に彼は聖剣を振り払って死喰人を下がらせる。予想以上の手強さに彼は冷や汗を流しながらもレアは他の付与魔法を試す。



「このっ……雷属性!!」

「アガガガガッ……!?」



聖剣に聖属性の魔力を付与させた状態でレアは「雷属性」の付与魔法を発動させた瞬間、白色に光り輝いてた刃から電流が迸り、死喰人に向けて電撃を放つ。化物は悲鳴を上げて全身から黒色の煙を噴き出し、肉体が塵と化して地面に崩れ落ちた。

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