第33話 一軒家

「時間があれば地道に上げるべきなんだろうけど、今はそんな悠長な事を言っていられる場合じゃないしな……文字数の余裕もないし、1つだけ変換させないと……」



レアがここまで訪れる際に何度か文字変換の能力を使用しており、彼は考えた末に雷属性の付与魔法の熟練度を高める。この魔法は触れた相手を感電させる事で相手の動作を硬直させる事は既に確認済みであり、彼は指先を画面に向けて熟練度の数値を「9」に変更させた。



「……特に何も起きないな」



レベルを急上昇させた時は異常な成長痛に襲われたが、熟練度の場合は特に身体に異変は起きない事にレアは安堵の息を吐く。そして彼はカラドボルグに掌を構え、熟練度を上昇させた雷属性の付与魔法を発動させる。



「雷属性エンチャント」



彼が掌を構えて刃に雷属性の魔力を送り込んだ瞬間、聖剣にこれまで以上の電流が迸り、更にレアが剣を振り翳す度に電流が剣先から放出されるようになり、しかも彼の意志で電流が操作できる事が判明した。



「これは……もしかして電流を操れるようになったのかな?」



試しに剣先を前方に構え、レアは自分の意志で電撃が操作出来るのかを確かめるため、正面に向けて刃に迸る電流を解き放つ。カラドボルグに帯びていた電流が剣先から拡散し、自由に「電撃」を放出出来るようになった事を確信する。



「これは便利そうだな、それならこれからはカラドボルグで相手の動きを止めてデュランダルで止めを刺す事に……うわっ!?」



唐突に地面に振動が走り、レアは体勢を崩して地面に座り込んでしまい、何事かと彼は視線を向けると左右の壁が徐々に動いている事に気付き、左右の幅が縮まっている事に気付く。



「嘘だろおいっ!?」



左右から迫る壁にレアは慌てて通路を駆け抜け、自分の肉体が潰される前に脱出を試みる。文字変換の能力を使用して壁を別の物体に変化する暇もなく、彼は通路の終わりまで一気に駆け抜けると、肉体が押しつぶされる寸前で通路を突破する。



「危なっ……もう少しで潰される所だった」



通路を抜けた先には今度は大きな広間に辿り着き、彼は周囲の様子を窺うが敵の存在は確認できず、一先ずは休憩を行う事に決めた。探索を開始してから時間も随分と経過しており、体力的にも精神的にも限界なので彼はアイテムボックスから道具を取り出す。



「これでいいか……今日はここで休もう」



アイテムボックスから取り出したのは「水晶瓶」であり、彼は地面に置くと鑑定の能力を発動させ、説明文に文字変換の能力を発動させ、彼は「一軒家」と書き換える。能力を発動させた直後に水晶瓶が光り輝き、彼の目の前に現実世界の建造技術で作り出された一軒家が誕生した。



「本当に便利だなこの能力……囲いまであるよ」



広間の中央に誕生した一軒家にレアは自分の能力で生み出したとはいえ呆れてしまい、大迷宮の内部に現実世界の建物が存在する光景はかなりシュールだが、今は身体を休ませるために家の中に入り込む。



「俺の家と少し雰囲気が似てるな……」



能力で作り出した建物はレアが現実世界で暮らしていた我が家とよく似ており、能力を発動させる際に彼が自分の家の事を一瞬だけ思い出した事が関係しているのかも知れず、彼は不思議に思いながらも中に入り込む。鍵の類は存在するが施錠はされておらず、簡単に中に入る事が出来た。



「へえ……家具までちゃんと用意されているのか。あれ、エアコン!?こんな物まで……ていうかガスとか電気通ってるの?」



家の中を探索しながらレアは家具を調べるとタンスの中には衣服の類まで収納されており、テレビに関しては電源を入れる事が出来たので電気は通っている事が発覚する(電波は受信できないのかテレビは見えなかったが)。更に水道やガスも通っている事が発覚し、彼は自分が元の世界に戻ってきたのかと錯覚しかけるが、窓の外に見える光景がこの世界が自分が住んでいた場所ではない事を嫌でも思い出させる。



「冷蔵庫まであるよ……中身は流石に空か」



食料が入っている事を期待したが、残念な事に中身は何も入っておらず、それでも水道は通っているので飲料水に関する問題は一応は解決する。後は食料さえ確保すれば「衣食住」の全てを完備するが、この場所が魔物が救う大迷宮である事に変わりはなく、魔物が家の中にまで入り込んでくる可能性は十分に存在する。



「眠い……2階で寝るか」



それでも建物の外で夜営を行うよりは家の中で過ごす方が安全だと判断し、念のために魔物が家の中に入り込んできた時の事を想定して簡単な罠を仕掛け、レアは建物の二階に存在した寝室で身体を休ませる事にした――

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