第28話 地下の階層

――草原に形成された落とし穴に飲み込まれたレアが意識を取り戻した時、彼の視界は見た事もない煉瓦の壁と天井が広がり、全身に激しい痛みが襲う。



「がはっ……な、何だっ……!?」



自分の体に大量の土砂が張り付いている事に気付き、彼は足元を見ると砂山のように土砂が盛り上がっている場所に落ちた事に気付き、落下の際に一緒に落ちてきた土砂が地面の衝突の衝撃を殺したのかと考えながらレアは立ち上がり、天井を見上げる。



「……ここから落ちたんじゃないのか?」



だが、彼の予想に反して天井にはレアが落ちてきたと思われる穴は存在せず、天井全体が照明のように光り輝いていた。この光のお陰でレアは周囲の光景を問題なく確認する事は出来たが、彼が先ほどまで存在した草原とは全く違う場所である事は間違いなく、戸惑いながらも身体を起き上げようとすると自分の肉体に透明の液体が糸を引いている事に気付く。



「うわ、何だこれっ……気持ち悪っ!?」



自分の肉体に「唾液」のような液体が身に付いている事に気付いたレアは驚くが、不思議と臭いは感じられず、粘着力も弱い。地面に視線を向けると彼が存在した場所だけ土砂の質が違い、腐葉土のように柔らかい土である事を確認するとレアは身体の汚れを振り払って移動を行う。



「別の階層に移動したのか?だけど、俺は下に落ちたんだよな……ダガンさんの話だと上の階層に移動するはずだったのに……」



塔の大迷宮は第一から第五までの階層に分かれており、上の階に移動する程に危険性が大きい魔物の巣窟が存在するとレアは聞いていたが、彼は自分が存在するのは何処の階層なのか分からず、そもそも本当にダガンの話していた他の階層に存在するのかも分からない。もしかしたら第一階層よりも下に存在する階層に存在する可能性もあり、周囲の警戒を怠らずにレアはアイテムボックスを発動させた。



「まずは武器の確保だな……落ちた拍子に落としたみたいだな」



彼が所持していた武器は落下の際に手放したのか見当たらず、素手でも戦えない事はないが念のためにアイテムボックスに収めた武器を取り出す。彼が選択したのはワイングラスから文字変換の能力で作り上げた「デュランダル」であり、伝説の武器は一定のレベルが存在しなければ真の力を開放出来ない事は知っているが、それでも普通の剣よりも遥かに頑丈で切れ味も優れているデュランダルを武器として使用する事に決める。


一応は伝説の防具も彼は所持しているが、今は剣を扱う事に集中して彼はデュランダルを握りしめ、足元に落ちている石を拾い上げて文字変換の能力を発動させて「石」という文字を「水」に変換させる。次の瞬間、彼の手元には回復薬のように水晶瓶に収められた飲料水が誕生し、一気に飲み干して喉を潤す。



「ふうっ……少しは楽になったな」



1日の間に変換できる貴重な文字数を消費してしまったが、彼は水晶瓶をアイテムボックスに入れてデュランダルの鞘を腰に収める。ちなみに鞘に関してはデュランダルを作成時に同時に発現しており、いざという時は別の物に変換する事も出来る。



「あ、そういえばこの剣なら付与魔法にも耐えられるじゃないか?よし……風属性エンチャント」



鑑定の能力を発動した時にデュランダルは「世界最硬の剣」という文章が存在したことを思い出し、試しにレアは掌を構えて「風属性」の付与魔法を発動させると、刀身に小規模の竜巻が発生して刃に纏わりつき、剣を軽く煉瓦の壁に向けて振り払う動作を行うとミキサーのように竜巻が煉瓦を削り取り、その光景を見たレアは付与魔法を一度解除させると刀身には罅どころか掠り傷一つ存在しない事に気付く。



「おおっ……!!流石は伝説の聖剣だな!!これなら付与魔法でも大丈夫なんだ!!」



自分の魔法を発動しても問題ない武器を手に入れていた事にレアは興奮するが、油断できない状況である事に変わりはなく、彼は周囲の警戒を怠らずに移動を開始する。



「それにしても何だここ……本当に迷宮だな」



煉瓦の壁に掌を押し付けながらレアは周囲を見渡し、この建物の名前通りに「迷宮」という表現が相応しい光景が広がっていた。複数に分かれた通路に明らかに彼より先に入り込んだ人間の末路と思われる「骸骨」が地面に散らばっており、それらを踏みつけないように気を付けながらレアは先に進む。



「皆は無事かな……俺がここに落ちた原因はやっぱりあれだよな……」



レアは草原に居た時の記憶の最後に握りしめていた「結晶石」を思い出し、ダガンが自分に捨て去るように再三告げていたのに所持していた自分が悪いとはいえ、このような場所がある事を教えてくれなかったダガンに違和感を抱く。



「結晶石を持っていたら危ない事は知っていたのにこの場所の事は知らなかったのかな……それなら何であんなに警戒していたんだろう……うわっ!?」



唐突に歩いている最中に右足が何者かに握りしめられ、慌ててレアは振り返るとそこには予想外の存在が自分の足を握りしめている事を知る。



「カタカタカタッ……!!」

「うわ、お化けぇっ!?」




――人間の死体だと思われていた地面に散乱していた骸骨が動き出し、その内の1体がレアの右足首を掴んで引き寄せようとしていた。

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