第26話 勇者の力
「何だこいつら?めちゃくちゃ弱いぞ!!」
「いや……もしかして僕達が強くなっているんじゃないかな?」
「その通りさ!!君達は僕の訓練を乗り越えて強くなったんだ!!」
『ギィイイイイッ!?』
茂は意外と手応えのない相手に拍子抜けするが、実際にはゴブリンが弱いのではなく勇者達が強くなっており、この半月間のデキンの地獄の訓練によって彼らは脅威的な速度で成長していた。レベルが上げなくとも身体を鍛える行為だけでも十分に肉体は成長しており、最初に召喚された時と比べると男性陣は見違えるほどに身体能力と体力が向上していた。
「ぼ、僕も……はああっ!!」
「ギャウッ!?」
瞬は身体を震わせながらも剣を振り翳し、ゴブリンの肉体を切り裂く。初めて魔物と戦うので身体が緊張しているのは事実だが、不思議な事に彼は剣を振り抜いた瞬間に身体の緊張が解れ、余計な力を加えずにゴブリンの頭部を切り裂く。
「な、何だ?豆腐みたいに軽く切れた……」
「おお、やるじゃねえか!!」
「瞬君凄い……だけど、ちょっと怖い」
「これが剣の加護なのか?」
自分の剣の切れ味に瞬は戸惑うが、その間にも他の勇者達が彼らの行動に勇気づけられてゴブリンとの戦闘を試みる。次に動いたのは「必中の加護」を持つ加奈であり、彼女は弓矢を構えるとゴブリンに目掛けて射抜く。
「こうかしら……ふっ!!」
「ギャアアッ!?」
彼女が射抜いた矢に対し、正面に存在したゴブリンは咄嗟に回避しようとしたが移動中の矢が軌道を変更させ、容赦なく右目を射抜いて脳にまで鏃が届く。その光景に加奈は納得した表情を浮かべ、自分の能力を確認できたことに笑みを浮かべる。
「これが必中の加護……確かに自動追尾まで出来るとは意外と便利ね」
「う、うちらも行くよ!!」
「ええっ!?で、でも私達は……」
「あの眼鏡教官に教わったように動けば問題ないっしょ!!行くよ美紀!!」
他の勇者の行動に刺激されたように槍を握りしめた美香と美紀が動き出し、二人の職業は「槍使い」と「騎士」なので槍の武器が最適だと判断された訓練を受けていた。そして先に動いたのは美香であり、彼女は次々と仲間が倒されて動揺している複数のゴブリンに向けて槍を突き出す。
「乱れ突き!!」
『イギャアアッ……!?』
彼女は目にも止まらぬ速度で槍を何度も突き刺し、残像が生まれて複数の槍を同時に突き出したようにゴブリン3体を突き殺す。その光景に全員が驚くが、彼女の後方で美紀も覚悟を決めたように美香が取りこぼしたゴブリンに向けて槍を構えると、気合を入れるように大声を張り上げる。
「はああっ!!」
「ギィイッ!?」
単純な速度ならば美香にも勝る勢いで槍が突き出され、反撃と回避の隙を与えずにゴブリンを貫く。その光景を目撃した勇者の中では只一人の「砲撃魔法」を扱える雛は杖を構え、大柄なゴブリンに砲撃魔法を発動させる準備を行う。
「わ、私も行くよ~!!えっと、なんだっけ……?」
「えっ……魔法の名前を忘れたの!?」
「ち、違うよ!!色々と魔法を覚えたからどれを使えばいいのか分からなくて……」
「なら一番使う魔法を使ったら!?」
「一番使う……あ、それなら洗浄魔法のリフレッシュかな?体の汚れを落としてくれる生活魔法で……」
「真面目に戦ってくれないかしら!?冗談抜きでね!!」
「ご、ごめんなさいっ!?」
『ギィイイイッ!!』
流石に仲間達を殺された事で他のゴブリン達も危機感を抱き、数の有利を利用してレア達に襲い掛かるが、それをダガンが身を挺して防ぐ。
「おっと、勇者君達には近づけさせないよ!!ふんっ!!」
「ギィアッ!?」
「ギィイッ!?」
「ギャウッ!?」
3体のゴブリンを同時に抱き上げたダガンは力尽くで背骨を握りしめ、恐ろしい腕力で鯖折りする。背骨を完全に砕かれたゴブリン達は血反吐を吐き散らしながら地面に倒れこみ、その光景に全員が恐怖するがダガンは爽やかな笑顔を浮かべながら振り返る。
「さあ、次は誰かな!?」
「ギィイッ……!?」
笑顔で同族を殺したダガンにゴブリン達は恐怖の表情を浮かべ、その隙に自分だけ活躍していない事に焦りを抱いた考が武器制作の能力を発動させ、彼は美しく光り輝く槍を生み出す。刃が三つ又に分かれた銛のような槍を生み出した考はゴブリンに放つ。
「く、喰らえっ!!トライデンド!!」
「ギィイイイッ!?」
「おおっ……成長したねコウ君!!」
彼が生み出したのは「トライデント」と呼ばれる武器であり、前回の妖刀ムラマサの件で懲りたのか彼はリーチが長い武器を選出して武器制作の能力を発動させる。この「トライデント」は現実世界ではギリシャ神話の海神ポセイドンの武器として知られているが、こちらの世界では水の魔力を宿す武器として実在した。
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