第25話 ゴブリンの襲撃

――時間帯が深夜という理由もあり、レア達は軽い休憩のつもりが食事を終えると寝入ってしまう。彼等のためにダガンが寝ずの番を行い、第一階層に存在する魔物から彼等を守るために筋トレを行いながら警戒を怠らずに見張りを行う。



「勇者君達は僕が守護らなければ……!!」

「そんなに気負わなくても……」

「あれ?キリサキ君、もう起きたのかい?」

「はい……というか、あんまり寝付けなくて……」

「それは大変だ!!休めるときに身体を休めないと駄目だよ!?ほら、僕に遠慮せずに休みなよ!!」

「そんな高速スクワットを行った状態で言われても……」



ダガンの鍛練が気になって寝付けないとは言えず、レアは身体を横にしてステータス画面を開く。日付を迎えた事で文字変換の能力も完全に復活しており、彼は懐から気づかれないように短剣を取り出す。



「万が一の場合はこいつが頼りだな……」



鑑定のスキルを発動させた状態で「短剣」に視線を向け、レアは2文字で変化できる文字を考える。食料や飲料水に変換する事も考えたが、やはり現在の装備だけでは不安な面があり、彼は短剣を別の武器に変換出来ないのか考える。例えば「長剣」と打ち込めばロングソードのような武器に変化する事は間違いないが、彼は剣よりも強力な武器を願うとしたら「拳銃」という文字が浮かぶ。



「大丈夫かな……」



文字変換の能力で現実世界の武器を生み出せるのかは確かめた事はなく、彼と同じように武器を生み出す事が出来る「武器制作」の能力を持つ考も現実世界の武器は生み出せない。それでも彼の能力とレアの能力は根本的に違うため、もしかしたら現実世界の武器を開発出来る可能性もある。



「よし、ここは賭けてみるか……」



指先を説明文の画面に近づけ、レアは「短剣」の名前を「拳銃」に変化させようとした時、唐突に筋トレを行っていたダガンが大声を上げた。



「皆起きて!!敵だよ!!」

「ふぁっ!?」

「ああっ……何だよ一体」

「うるさいなっ……うわっ!?」



ダガンが筋トレを中断して両腕を構えると、他の人間も彼の声に起こされて身体を起き上げた時、自分達に向けて接近してくる存在を確認する。レアは咄嗟に自分の槍を握りしめ、こちらに近づいてくる存在に視線を向けると相手が1メートルにも満たない身長の人型生物だと気づく。



「ゴブリンだ!!しかも凄い数だぞ!!」

『ギィイイイイイッ!!』



休憩していたレア達に接近してきたのは「小鬼」という表現が最適の生物であり、それぞれが1メートルにも満たない小柄な体ではあるが、それでも全身の筋肉は発達しており、全身が緑色の皮膚に覆われている事から周囲の草原に目立たないように溶け込んで接近していた事でレア達も気付くのに遅れてしまう。ゴブリンは非常に恐ろしい形相であり、その数は10体を超えていた。



「ギィイイイッ!!」

「な、なんだこいつら……俺達を囲みやがった!!」

「ちょっと、何これ!?超キモいんですけど!!」

「お、お姉ちゃん!!刺激しないで……!!」

『ギィイイイイッ……!!』



自分達に近づいてくるゴブリンに魔物との初戦闘を迎えた勇者達は激しく混乱するが、ダガンはそんな彼等を安心させるように大声を張り上げる。



「落ち着くんだ皆!!ゴブリンは魔物の中でも力が弱い!!まあ、その分に知能が高いから人間のように罠を掛けたり、武器を使うから気を付ける必要があるけど……」

「安心させたいなら最後に不安なことを言わないでくれませんかっ!?」

「危ない霧崎君!!来るぞっ!!」



ダガンの言葉にレアが突っ込みを入れるが、彼が注意を反らした隙に1体のゴブリンが跳躍して飛び掛かる。両手には人の頭を叩き潰せる程の石を握りしめており、そのまま彼の頭部に叩きつけようとしたが、レアは冷静に右腕に意識を集中させて「風属性」の付与魔法を発動させて吹き飛ばす。



「お帰り下さいっ!!」

「ギィアアアアッ!?」

『ギィイイイッ!?』



レアは右腕に小規模の竜巻を纏わせた状態で迫りくるゴブリンを吹き飛ばした瞬間、相手は派手に10メートルまで先の地面にまで吹き飛ばされ、全身を捻じ曲げられた状態で倒れこむ。首が180度に曲がっており、間違いなく絶命したのを確認すると彼は驚きの表情を浮かべる。以前に医療室でセンリが暴走した時とは比べ物にならない程の威力であり、彼は自分のレベルが9に上がっている事とダガンの地獄のトレーニングを乗り越えた結果だと判断した。



「お、おおっ……素晴らしい!!素晴らしいよキリサキ君!!何時の間にそこまで……!!」

「な、何だ今の威力……凄くないっ!?」

「す、凄いよ霧崎君!!何時の間にそんな魔法を覚えたんだい!?」

「そんな馬鹿な……あいつ、最弱職じゃなかったんじゃ……」

「へっ!!あの訓練の効果か!?それなら俺だって!!」



ゴブリンの1体が倒された光景を見て他の勇者も勇気を奮い立たせ、喧嘩慣れしている茂が真っ先に動き出し、彼は近くに居たゴブリンを蹴り上げる。



「おらぁっ!!」

「ギャウッ!?」



元々現実世界の頃から他の不良と喧嘩ばかりしていた茂は躊躇なくゴブリンの雄の急所に蹴り込み、金的に衝撃を受けたゴブリンは顔を苦痛の表情に変化させ、その間に彼は鉄拳を叩きこむ。



「ぶっ飛べっ!!」

「ギィアア……ッ!?」



顔面を全力で殴り込まれた事でゴブリンの牙が全て砕け散り、格闘家の勇者である茂に殴り込まれた個体はあっさりと絶命した。

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