第24話 第一階層 〈草原〉

「あの……ダガンさんは何も武器は持ってこなかったんですか?外に武器が用意された木箱がありましたよね?」

「ああ、僕にはこの筋肉があるからね!!」



レア達をここまで運び込んだ帝国の兵士達は武器の類と食料品が収められた木箱を置いて退去しており、レア達の現在の装備品も木箱から回収した物である。念のためにレアは木箱から装備品を取る前に鑑定のスキルを発動させて何か仕掛けられていないか調べたが、特に怪しい点はなかった。


それにも関わらずにダガンは最初から着込んでいた鎧を除いて木箱から回収したのは食料品と飲料水だけであり、彼は本気で素手で戦うつもりなのか何も装備せずに移動する。格闘家の茂でさえも無手ではなく、不良である彼が愛用するメリケンサックと酷似した「鉄拳」と呼ばれるこの世界の武器を拳に身に着けている。外見はボクシンググローブにも似ており、茂は気に入ったように両拳を叩きつける。



「何にせよ……遂に魔物とやらと戦うのか、少しわくわくするぜ」

「何処の戦闘民族だお前……くそ、やっぱり僕が武器制作の能力で伝説の武器を……!!」

「駄目だよタカヤマ君!!君の能力は素晴らしいけど、まだ君自身が武器を扱いきれないと意味がない!!それに伝説の武器は大抵はレベルの制限が存在するから今の君達には扱えないと思うよ」

「な、何だって!?」

「うわ、という事は高山の能力は役に立たないわけ?マジで何の意味があるの、その能力……」

「う、うるさい!!」



ダガンの言葉に高山は内心衝撃を受けた表情を浮かべ、自分が武器制作の能力で伝説の武具を生み出せる事を自慢していた彼にとってはあまりにも酷な現実を突きつけられる。その一方でレアも自分が生み出した伝説の武器が上手く扱えない理由を悟り、アイテムボックスに収納している歴史上で活躍した武器も頼りにならないと判断した。



「ん……な、何だ!?」

「あれ!?外に出ちゃったよ!?」

「何これ……どうなってんの?」

「そ、草原……?」

「……ここが大迷宮の第一階層、別名はゴブリンの草原さ」




――遂に大迷宮の一階に入り込んだレア達は内部の光景に目を見開き、彼等の視界には驚くべきことに美しい青空が広がった草原が広がっていた。最初は何が起きたのかレア達は理解できなかったが、即座にダガンが説明を行う。





「皆、冷静になって周囲を見てごらん?空に太陽が浮かんでいないだろう?」

「あ、本当だ……それに俺達が入ってきた時は夜だったはず」

「じゃあ、ここは何処なんだよ!?まさか別の場所に転移したとでも言う気かっ!?」

「てんい……?ねえ、てんいって何?」

「えっと、瞬間移動って分かる?そういう感じで移動したんじゃないかって事だよ卯月さん」

「あ、それは知ってるよ!!手からビームが出る漫画で見た事ある!!」



動揺した考の言葉に卯月は首を傾げるが、レアが分かりやすく説明すると彼女も理解できたように頷く。その光景に何故か考の方が恥ずかしくなり、慌てて彼はダガンに先ほどの疑問を問い質す。



「こ、ここは何処だよ?まさか本当に別の場所に転移……いや、移動したわけじゃないんだよな?」

「その通りだよタカヤマ君、ここは間違いなく建物の中さ!!多分、ここの天井と壁には外の光景を模した絵が描き込まれているんだよ」

「はあ?そんな馬鹿なっ……あいてっ!?」

「どうした大木田!?」

「いや、ここに壁みたいなのが……何だこりゃ!?よく見たら硝子みたいな壁があるじゃないか!?」



茂は驚いたように自分の前方の空間に存在する壁に気付き、この場所が建物の室内である事を証明するように青空の風景が描かれた天井と透明な壁が存在した。



「不思議だろう?どう見ても外の世界に出たとしか思えないのにここは大迷宮の内部なんだ。ちなみに上の階層では荒野のような風景が描かれているよ。専門家の話によると各階層に生息している魔物が適しやすい環境が維持されているらしいんだ」

「そういえばここに入った時から寒さをかんじないよな……」

「あ!!あれって湖じゃない!?あんな物まで存在するの!?」

「そうだね、それなら少し休憩しようか。大丈夫、ここは力が弱いゴブリンしか生息していないから僕一人でも皆を守れるよ」



ダガンの意外な提案に全員が驚くが、半日近くも窮屈な馬車に閉じ込められていたレア達も肉体が披露しており、彼の言葉に賛成して木箱から回収した食料と水を補給する事にした。

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