第23話 大迷宮に向けて

――強制的に兵士達に連行される形でレア達は用意された馬車に乗り込み、半月近くも過ごした王城から離れる。最初は抵抗していた茂や考も武装した兵士に囲まれては抵抗も出来ず、拉致された人間の気分を味わいながら勇者達は大迷宮と呼ばれる建造物に向けて移動を開始する。


彼等が乗り込んだ馬車を動かすのは普通の馬ではなく、王国が飼育している「角馬」と呼ばれる身体に角を生やした馬のような生物である。角が生えていると言ってもユニコーンやバイコーンのような神話の生物のように額に生えているわけではなく、牛のように頭の横に角を生やしている。この角馬の最高速度は時速が120キロを超えており、しかも休みなく4時間以上も走り続けられるほどの体力を誇り、レア達を乗せた馬車は夜通し走り続けた。


王城を出発してから約半日後、まだ完全に夜が明ける前の時間帯に馬車は立ち止まり、就寝していたレア達は兵士達に無理やり起こされて馬車の外に移動させられる。そこで彼等が目撃したのは周囲が荒野に覆われた巨大な建造物であり、全長が1000メートルを超える巨大な「塔」がレア達の視界に広がる。



「な、何だこの馬鹿でかい塔はっ……!?」

「これが大迷宮ダンジョンだよ皆……出入口は1つしか存在しないから、途中で別の場所から抜け出す事は出来ない。そして塔の内部には迷宮が広がっている。各階層には別々の魔物が生息して罠も多数存在する世界で最も危険な場所さ」

「そんな場所にうちらを行かせる気!?何を考えてんのよ!!馬鹿じゃないの?」

「しゅ、瞬君……」

「だ、大丈夫だ雛……君だけは僕が守る」

「こ、怖い……」

「くそっ……どうしてこんな事に」



勇者達は荒野の中で大迷宮と呼ばれる巨大建造物の前に立ち尽くしており、ダガン以外に他の人間の姿はない。ここまで彼等を送り込んだ兵士達は既に退去しており、この大迷宮を中心とした80キロ圏内には村や町は存在せず、仮に人里が存在する場所まで移動するにしても荒野に生息する魔物に襲われる可能性が高い。


兵士達が立ち去る前に残したのは彼等全員分の武器と防具、そして1日分の食糧と飲料水だけであり、立ち去る際に「一週間後」に迎えに来るという言葉を残して立ち去る。現在の時間帯は深夜2時であり、荒野の温度はマイナスにまで下がってはいるが、昼頃には気温が40度まで上昇する。


どうしてこのような場所に巨大な建造物が存在するのかは誰も解明できず、少なくとも帝国が建国される前から大迷宮は存在した。レア達の目の前に存在するのは「塔型」の大迷宮であり、この大迷宮にはゴブリン、オーク、コボルト、オーガ、そしてキメラと呼ばれる魔物が生息している事だけ確認されていた。



「さ、寒い……ここに居たら凍え死ぬぞ!?」

「だけど、何処にも身を隠す場所はない……この中に入ろう」

「しょ、正気か?この中は化物の巣窟なんだろう!?」

「それでもこのまま外に居たら僕はともかく、皆が死んでしまうよ。この大迷宮の中は暖かいし、食料や水も手に入る。一先ずは中に入ってからこれからの行動を考えよう」

「な、中に入るって……この扉を開けろってのかよ!?」



大迷宮の巨大な「黄金の扉」が取り付けられており、その大きさは10メートルを超える。ダガンによればこの扉が唯一の出入口のため、ここを通らなければ中には入り込めない。



「ど、どうやって入るんですか?まさか、こんな扉を私達だけで開くんじゃ……」

「大丈夫!!この扉を開く必要はないよ!!だってこれは……」

「えっ!?ダガンさん!?」



ダガンは黄金の扉に向けて歩み寄り、彼はゆっくりと掌を伸ばして扉の表面に触れた瞬間、彼の手が扉の中に飲み込まれる。その光景に全員が驚くが、彼は何事も無いように笑みを浮かべて扉の中に身体をゆっくりと移動させる。



「この扉は幻だからね!!実際には扉なんか存在しないから普通に中に入れるんだよ」

「ほ、ホログラム……!?」

「そ、そんな馬鹿な……まさかこの世界にこれほどの科学力があるのか!?」

「んなわけないっしょ!!どうせ幻か何かでしょ?魔法がある世界なんだからそんなに驚く事でもないでしょ」



黄金の扉の中に身体を沈ませるダガンに全員が動揺したが、すぐにこの世界が魔法が実在する世界だと思い出し、扉に特別な魔法が仕込まれていると考えたレア達も彼の後に続いて黄金の扉の中に入り込む。



「うわっ……何か変な感じだな」

「そうだね……全身がプリンに包まれているような感覚だ。それなのに普通に動けるし喋れるなんて……」

「何か気持ち悪いね……何処まで続くの?」

「もう少し歩けば抜けられるよ……ほら、あそこが第一階層さ」



先頭のダガンの後に続いてレア達は移動を行い、彼等は兵士が用意した装備を身に着けており、女性陣の中には弓矢や杖を装備している者もいる。各職業に合わせた武器を全員が所持ており、ダガンも今回は全身に鎧を身に着けているが、彼だけは武器の類を装備していない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る