第22話 ウサンの命令
訓練に戻ったレアはダガンの考え抜いた鍛練方法を実行し、身体を鍛え続ける。時間を少し遅れてしまったため、罰として彼だけが全員の前で腕立て伏せを行う。
「うん、霧崎君も大分たくましくなったね!!僕を乗せながらの腕立て伏せも問題なく出来るようになったね」
「そう、ですか……!?」
「あいつ……すげぇなっ」
「あ、ああ……僕達にはとても真似できない」
「何なんだよあいつら……」
訓練を受けている中で実はレベルが9に達しており、さらに身体強化の技能スキルを習得しているレアは他の人間よりも運動能力が突出している。それに気づいたダガンは彼だけに特別な訓練を課すようになり、腕立て伏せを行うレアの背中に彼は乗り込む。
いくら身体を強化させるスキルを所持しているとはいえ、人間一人を乗せたまま行う腕立て伏せは身体に大きな負担が押し掛かるが、それでもレアは根性で事前に指定された回数までやり遂げる。
「99、100!!」
「お疲れ様!!30秒だけ休憩していいよ!!他の皆も準備してね!!」
「は、はい!!」
「今度は何をやらされるんだ……?」
「また服を着たまま水泳でもやらせるつもりじゃないだろうな……」
レアが息を整えるまで他の人間も準備を始め、ダガンはスクワットを行いながら次の訓練を指導しようとした時、裏庭に意外な人物が現れた。
「いやはや、精が出ていますな将軍!!」
「ウサン大臣?」
「あ?なんだてめえっ……」
「おっと、今日はいきなり殴りかからないでくださいよ」
姿を現したのは新しい桂を装着した状態のウサンであり、彼は裏庭に存在する勇者達に視線を向け、レアと顔を合わせるとあからさまに表情を歪めるが。それでも気を取り直したようにダガンに訓練の経過を窺う。
「それでダガン将軍、勇者殿の様子はどうですかな?」
「順調ですよ将軍。この調子ならあとひと月もすれば彼等も魔物と戦えるでしょうね!!」
「ひと月?何を悠長なことを言っているのですかな?勇者殿には明日から大迷宮ダンジョンに挑んでもらう」
「……何ですって?」
ウサンの言葉にいつも陽気なダガンの表情が代わり、真剣な表情で彼に視線を向ける。その一方でレア達は「大迷宮」という単語に疑問を抱き、彼が何の話をしているのか尋ねようとした時、先にウサンが疑問を感じ取ったように先に答える。
「勇者殿はまだ知らないようですが、実はレベルを効率よく上昇させるには最適な場所がこの帝都の近辺に存在するのです。その名前は「大迷宮」と呼ばれ、世界に5つしか存在しない「古代遺跡」なのです」
「古代遺跡……?」
「この遺跡は原理は不明ですが大量の魔物が生息しており、しかも複数の階層に分かれています。各階層には別の種類の魔物が生息しており、そして最下層には凶悪な魔物の主が存在すると言われています」
「それがダンジョンか……正にゲームの世界だな」
「でも待ってください!!僕達はまだ訓練を受けている途中ですよ?今の状態で魔物と戦えるんですか?」
「僕も反対です。まだ勇者君達には大迷宮は早すぎる……せめて二か月は訓練を受けて貰わないと安全とは言い切れません」
「そんな悠長な事は言っていられない。既に勇者殿の訓練に大量の予算を費やしていますからな。それに皇帝陛下から大迷宮の許可証は頂いている」
「そんなっ!?」
ダガンに対してウサンは羊皮紙を手渡し、彼は内容を確認して皇帝が用意した許可証だと確認すると、信じられない表情を浮かべながらウサンに顔を向ける。彼は余裕の笑みを浮かべながらパイプを取り出し、火を灯す。
「皇帝も内心焦っておられるのですよ……このまま勇者殿が何も手柄を上げなければ他の者に示しがつかない。既に大迷宮に向かうための馬車は用意している。今から移動して貰うぞ」
「なっ!?大迷宮に挑むのは明日からでは……」
「生憎と貴重な転移石を使う訳にはいかなくてな。必要経費の削減のために協力して貰うぞ」
「今から出発するのかよ!?」
「ちょ、ちょっと待てよ。こっちは訓練の途中だぞ……それに卯月達は……」
「既に女性の勇者殿は馬車に乗り込んでおります。こちらの方は簡単に納得してくれましてな……まさか自分達だけ残るとは言いませんよね、勇者殿?」
「……下衆がっ」
最後のダガンの言葉は怒気が混じっており、彼の気迫にウサンは後退るが、それでも彼は命令を降す。
「こ、これは皇帝陛下の意志だ!!勇者を一刻も早く大迷宮に向かわせろ!!いいな、これは勅命だぞ!!」
「……分かりました」
「ダガンさん!?」
「すまない皆……だが、僕も大迷宮の探索に参加させて貰います。問題ないですね?」
「ちっ……勝手にしろ!!」
ウサンはダガンに向けて唾を吐き捨て、彼の行動にレア達は流石に我慢できずにウサンに掴みかかろうとしたが、先にダガンが掌を向けて制止する。
「皇帝陛下の命令ならば従います。だが、僕は貴方の家臣ではない……その事をお忘れないように」
「ふんっ!!そんな態度を取っていられるのも今の内だぞ!!」
「っ……!!」
立ち去っていくウサンにレアは彼を睨みつけ、即座に鑑定のスキルを発動させる。そして彼のステータス画面を確認すると、即座に文字変換を発動させてレベルを確認する。数値は「12」を示しており大臣の職業に付いているせいなのか普通の兵士よりもレベルが低く、彼はレベルの項目に指を向けて数値を「22」に変換させた。
――ぎゃあぁああああああああっ!?
レベルの急上昇による筋肉痛の影響を受けたウサンは裏庭で唐突に悲鳴を上げて倒れこみ、その光景にレア以外の人間は呆気に取られるが、彼をそれを見て少し気分が晴れたため、仕方なく彼のレベルを1文字変化させて「20」に戻して筋肉痛の痛みを和らげてやった。
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