第21話 文字変換の生成物

「さてと……」

「あれ?何処へ行くの?」

「ちょっと部屋に忘れ物したから取ってくるだけだよ」

「もうすぐあの筋肉達磨が来ちまうぞ?さっさと戻って来いよ」

「分かってるよ」



この半月の間にレアは他のクラスメイトとの距離も縮めており、適当に返事を返しながら食堂を後にする。この半月の間に城の兵士達には顔を覚えられており、彼が廊下を歩いていると遭遇する兵士達に頭を下げられる。



「あ、勇者様!!おはようございます!!」

「おはよ~」



兵士に挨拶を返しながらレアは自分の部屋に繋がる通路を移動し、その途中でアイテムボックスを発動させて彼は書庫から借りた書物を取り出す。彼が持ち込んだのは先日に高山も拝見した帝国の歴史書であり、彼は過去の戦争で使用された伝説の聖剣や魔剣の名前と挿絵を確認しながら部屋に辿り着く。



「こっちの世界には俺達の世界の伝説の武器が普通に存在するんだな……大昔に召喚された勇者が制作した代物もあるのかも知れないな」



過去にこの帝国は何度か勇者召喚を行っており、その度に様々な加護を受け継いだ現実世界の人間達が存在する。高山の場合は武器制作の能力で既存の武器を生み出す事は出来るが、過去に召喚された人間の中にも彼と同じように武器を製造する能力を持つ人間が存在しても可笑しくはない。



「だけど、俺のように武器を作り出した人間はいるのかな……」



レアは周囲を見渡し、誰にも見られていない事を確認して自分の部屋に入り込む。ちなみに彼が最初に利用していた部屋は現在は扉が破壊された事で使われておらず、ウサンが嫌がらせで彼に物置小屋のような部屋を用意していた事を知った皇帝は彼を叱りつけ、他の勇者と同様にちゃんとした部屋を用意している。


部屋の中に入り込むとすぐにレアは食堂から回収して置いた「ワイングラス」を取り出す。彼が使用していた物ではなく、先に食事を終えた人間が残していた物を使用人が片付ける前に回収していた代物であり、早速彼は歴史書を開いて適当な武器の名前を探し出す。



「デュランダル……これでいいか」



書物の挿絵と名前を確認しながら彼はワイングラスを机の上に置くと、鑑定のスキルを最初に発動させる。



『ワイングラス』



説明文は重要ではないので無視して彼は文字数の確認を行い、指先を画面に近づけて「文字変換」の能力を発動させる。そして彼が新たに書き込んだ文字は「デュランダル」であり、机の上に存在したワイングラスが発光する。徐々に形状が剣の形に変化を果たし、やがて全体が黒色に染まった長剣に変化を果たす。その光景にレアは冷や汗を流しながら長剣を握りしめ、持ち上げながら鑑定のスキルを発動させる。



『デュランダル――世界最硬の剣であり、強力な衝撃波を生み出せる聖剣』



以前に考が作り出した「妖刀ムラマサ」と違い、こちらの聖剣は所有者を支配する能力は存在せず、レアはデュランダルを握りしめて素振りを行おうとするがあまりの重量に剣を振る事も難しく、仕方なく彼はアイテムボックスに回収する。これで伝説の聖剣を作り出したのは「3回目」であり、他にも様々な武器や防具を作り出してアイテムボックスに回収させていた。



「まさかワイングラスで伝説の武器を作り出せるなんてな……本当にやばいな、この能力……」



鑑定のスキルと組み合わせれば彼は文字数が同じならば伝説上の武器を作り出す事が可能であり、しかも高山の能力で生み出された武器制作と違って彼の生み出した武器に制限時間は存在しない。1日に9文字しか文字を変換させる事が出来ないが、それでも彼の能力は他の勇者達の能力の中でも異質と言える。



「皆の為に伝説の武器を全部作らないとな……だけど、この能力が他の人間に知られたら不味いよな」



仮にレアが自分の能力を他人に明かした場合、間違いなく大勢の人間に自分の能力を利用される可能性があった。ステータスを変換出来る事を知られれば訓練や魔物との戦闘を行わずにレベルや熟練度を上昇させる事も可能であり、更に伝説の武器を日用品から幾らでも作り出せる事が知られれば非常に危険な事態に陥る可能性が高い。彼の能力を狙って大勢の人間が争う結果になるかも知れず、レアは迂闊に自分の能力を知られないように気を付けながら歩あのクラスメイトの為に自分の能力を上手く扱えないのか日々思い悩んでいた。



「とりあえず、武器は作っておいても問題ないよな。それと元の世界の武器も作り出せるか試しておかないと……やばっ!?訓練に送れる!!」



訓練の時間が迫っている事に気付き、慌てて彼は部屋を飛び出して裏庭に移動する。しかし、自分の行動を終始観察していた存在が居た事にレアは気付いていなかった。

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