第19話 体力作り

「じゃあ、今日は君達に渡すものがあるよ!!これを身に着けてくれるかい?」

「あの……それはなんですか?」

「鎧さ!!今日から皆にはこの鎧を身に着けて訓練をして貰うよ!!」

「鎧って……」

「そ、そんな物を付けて動けるわけないだろ!?」

「大丈夫!!慣れてしまえばどうって事はないさ!!」



ダガンは4人のサイズに合わせた鎧を用意すると、今後の訓練は鎧の着用を命じる。彼曰く、鎧を付ける事で多少は危険な訓練も行えるようになり、身に着けた鎧が錘代わりに利用する事で体力と筋力を身に着ける事が出来るという。


当然だが最初は4人も鎧を身に着ける事は抵抗感を示したが、ダガンによるとこれから魔物と戦うために必要な事であり、結局は全員が鎧を身に着ける。初めて本物の鎧を身に着けたレアは意外と鎧が軽い事に違和感を抱き、他の人間の反応を窺う。



「意外と軽いな」

「そうだね、思っていたよりも動けそうだ」

「ば、馬鹿かお前ら!?こんな物、どうやって動けって言うんだよ!?」



元々は野球部に所属していた瞬と喧嘩三昧で身体を鍛えていた茂は鎧を身に着けても特に問題はなく動くが、現実世界に居た頃から運動が苦手だった考は鎧を身に着けたまま地面に座り込んでしまい、動ける様子ではなかった。一方でレアの方は朝に習得した格闘家と技能スキルの影響なのか鎧を身に着けても自由に動けた。



「ふむ……どうやらこの中では考君が一番筋力がないようだね」

「な、何だとっ!?くそ、霧崎!!どうしてお前は動けるんだよ!?最弱職の癖に……!!」

「いや、そんな事を言われても……」

「職業なんて関係ないだろう?この場合は君が日頃から運動を怠っていた結果じゃないのかい?」

「おい、みっともない事を言ってんじゃねえよ」



考は自分が動けないのにレアが普通に動く事に納得がいかずに怒鳴り散らすが、そんな彼の態度に他の人間は呆れた表情を浮かべる。その一方でレアは今朝に覚えたばかりの技能スキルの効果を実感し、自分の身体能力が上昇している事を確かめる。



「それで今日はどんな訓練をするんだよ?まさかまた城の中を走り回るのか?」

「安心してくれ、今日はそんなに軽い運動じゃないさ!!これから君達には僕が考えたメニューを行ってもらうよ!!」



ダガンは一枚の羊皮紙を取り出し、レア達に手渡す。彼等が渡されたのは1日のスケジュール表であり、その殆どが体力作りの訓練に費やされていた。それを見た全員が顔色を変え、スケジュールの中には休憩も含まれて入るが1日の半分以上を身体を鍛える行為に費やす事が描かれていた。



「あ、あの……これは一体?」

「僕が考えた訓練表だよ。これから一か月はやってもらうスケジュールだよ」

「1日でこれだけの量を……?」

「む、無理だ……こんなの身体が壊れるだろ!?」

「だけど、これだけの量の訓練を行えるようにならないと魔物との戦闘で殺されてしまうかもしれないよ?」

「うっ……」

「ちなみに僕の所の兵士はこの訓練を毎日行っているよ。それに身体が壊れそうになった時は回復薬を用意しているからね」

「回復薬?」

「身体の怪我や疲労を治療する薬だよ。だけど貴重な物だって聞いていたけど……」

「それが喜んでくれ!!あのウサン大臣が君達の訓練のために大量の回復薬を用意してくれたんだよ!!ほら、こんなにいっぱい!!」



説明の途中でダガンは大きな木箱を両手で抱え込み、蓋を開いてレア達に中身を見せつける。中身は今朝にレアが利用した回復薬と同じ物が並べられており、大量の水晶瓶が木箱の中に詰められていた。これを使用すれば大抵の怪我や疲労は回復するため、訓練に集中できるという。



「あの大臣がこんなに気前がいいのは珍しい事なんだよ!!勇者の君達のためにわざわざ予算を分けて用意してくれたからね!!これから毎日訓練に集中できるよ!!」

「は、ははっ……」

「絶対に嫌がらせだろ……」

「ああ……」

「くそっ……何を考えてるんだあの禿げ頭大臣め……!!」

「こんな訓練、絶対に無理だろ……」



大量の回復薬を所有したダガンは満面の笑みを浮かべるが、その一方で勇者達は顔を引きつらせており、これから毎日行われる訓練の日々を想像しただけで気分が落ち込む。




――この日から勇者の男性陣だけは毎日のように地獄のトレーニングが始まり、まずは体力作りと身体能力の底上げのための訓練の毎日行う。ダガンの訓練は日に日に過酷さを増しており、身体が限界を迎えようと強制的に回復薬を使用して身体を回復させ、訓練を続行させる日々が始まった。

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