第18話 文字変換の効果

「万年筆か……よし、試してみるか。えっと……鑑定!!」



レアは机に乗せた万年筆に視線を向け、覚えたばかりの鑑定のスキルを発動させる。相手が生物ではない場合、視界に表示されるステータス画面はレナが自分が見知っている画面とは大きく異なり、鑑定した物体と特徴だけが記された説明文の画面だけが表示された。



『万年筆――インクが切れた状態の万年筆』

「……なんか思っていたのと違うな。まあ、別にいいか」



鑑定のスキルを発動させたまま、レアは説明文の画面に指を向けて文字変換の能力を発動させる。自分のステータス画面と同様に視界に表示された画面に触れられる事を確認すると、早速彼は指先を動かして万年筆の文字を書き換える。



「あ、変換できる文字数が増えると一気に複数の文字を変えられるのか」



今までは1文字ごとに文字変換を行えなかったが、使用条件を変更したことで複数の文字を変えられる事に気付き、彼は「万年筆」という文章を別の文字に置き換える。今回彼が変更した文字は昨日のセンリから教わったこちらの世界に存在する薬品の名前であり、名前の部分だけを変更した場合はどうなるのかを確かめるために文字を書き込む。



「これでよし……どうだ!?」



彼が「万年筆」の名前を「回復薬」という文字に変えた瞬間、机の上に置かれていた万年筆が光り輝き、徐々に形状がし、やがて緑色の液体が入った硝子瓶に完全な変化を果たす。



「な、何だこれ……?」



名前を変更した瞬間に変わり果てた万年筆に戸惑いながらもレアは硝子瓶を摘み取り、中身を確認する。すぐに彼は硝子だと思い込んでいた瓶が手触りで違う事に気付き、硝子ではなく水晶のような素材で作り出されている事に気付く。



「凄く綺麗な液体だけど……まさかメロンジュースじゃないよな」



レアは水晶製の瓶に視線を向け、再度「鑑定」のスキルを発動させた瞬間、説明文の項目に大きな変化が加えられている事に気付く。



『回復薬――あらゆる怪我、疲労を回復させる液体が入った水晶瓶。中身の回復液は飲用する事でも回復効果は発揮するが、身体に擦り込ませる方法が効果が高い』



今回は名前だけを変更したにも関わらず、他の説明文の文字まで変化しており、しかも彼の予想通りに普通の硝子瓶ではない事が判明する。名前の響き通りに水晶で作り出された瓶である事が発覚し、試しにレアは中に入っている液体を口にする。



「これ、元は万年筆なんだよな……いや、ここは一気に!!」



一瞬だけ飲む事を躊躇ったが、全身の筋肉痛を癒すためにレアは一気に回復薬の液体を飲み込む。意外と喉越しは良く、味は栄養ドリンクに酷似していたため、特に問題なく飲み干した直後に彼の肉体に異変が生じた。



「うわっ……何だこれ!?」



身体全体に緑色の光が迸り、全身の筋肉痛が完全に消え去ったように身体が軽くなる。その効果に驚きながらもレアは握りしめている水晶瓶に視線を向け、彼は鑑定のスキルを発動させる。



『水晶瓶――水晶材と呼ばれる素材で製造された小瓶。非常に頑丈であり、主に回復薬の容器として扱われる』

「水晶瓶か……小さいけど、水筒ぐらいには使えるかな」



回復液は飲み干してしまったが捨てるのは勿体ないと感じたレアは水晶瓶を鞄にしまうと、そろそろ訓練が始まる時間帯なので移動する事にした。回復薬の効果のお陰で肉体も完全に回復しており、更に色々な技能スキルを覚えたので彼は普段よりも身体が軽く感じられた。



「よ~しっ!!訓練頑張るか……うわっ!?」



だが、予想外に肉体が強化されていたのかドアノブに手を伸ばした瞬間、力尽くで破壊してしまう。彼はドアノブが取れてしまった扉に視線を向け、どうやって抜け出せばいいのか思い悩む。





――結局、レアが扉を抜け出す事に成功したのは数分後の話であり、彼が止まっていた部屋を通りかかった使用人は扉が内側から強い衝撃を受けて吹き飛んだように通路に倒れこんでいる光景に激しく動揺し、王城に賊が侵入したのではないかと騒ぎ出したのは彼が出て行ってから数十秒後の話になる。




既に裏庭にはレア以外の男性陣が待機しており、その中には考も存在した。彼と指導役のダガンは昨日の件で罰を命じられているので訓練には参加しないかと思われたが、二人とも掃除用具を抱えた状態で待ち構えていた。



「あ、やっと来たねキリサキ君!!寝坊したのかと心配してたよ!!」

「す、すいません……ちょっとトラブルがあって」

「ちっ……」

「おい、何だよその目つきは?ああっ?」

「辞めろ大木田……高山君も睨みつけるの駄目だよ」



考は昨日の一件でレアの姿を見た瞬間に表情を歪め、彼のせいで自分がこんな酷い目に遭っていると言わんばかりに睨みつける。だが、実際に問題の原因が考である事は明白であり、レアは敢えて彼を無視する。

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