第15話 回復魔法

「聖属性(エンチャント)!!」

「ああっ……癒されるわぁっ」



ベッドに横たわった老婆の背中にレアは両手に聖属性の付与魔法を発動させて掌を押し付けると、彼女の肉体に魔法が付与されているのか彼の魔力が流し込まれる。回復魔導士の老婆は非常に安らかな表情を浮かべ、やがて苦痛が完全に収まったのか彼女は身体を起き上げて身体を動かす。



「ふうっ……助かったわ。あっ!?いえ、助かりました勇者様!!その、大変ご迷惑をお掛けしてすいませんでした!!」

「あ、いえ……悪いのは高山の馬鹿ですから」

「そ、そうですか?」



考の不用意な行動で命の危機に晒されたレアは今更彼を君付けする必要はないと判断し、後で顔を会わせたら覚えたばかりに付与魔法の攻撃法を試すつもりだった。実際に先ほどの風属性を利用した一撃は凄まじく、仮に彼のレベルや魔法威力上昇の固有スキルの能力を高めたら更なる威力が生み出せる事は間違いない。


レアは冷静に考えれば名前も知らない老婆の介抱をしながらステータス画面を開き、戦技の項目の付与魔法を確認すると案の定というべきか「熟練度」の項目に変化が生じていた。



―――――――――――――


戦技


・火属性 熟練度:1


・風属性 熟練度:3


・氷属性 熟練度:1


・雷属性 熟練度:1


・土属性 熟練度:1


・闇属性 熟練度:1


・聖属性 熟練度:2



―――――――――――――



先程の戦闘のお陰で風属性の熟練度が上昇しており、更に治療のために聖属性の付与魔法を利用したせいかこちらも同様に上昇していた。この熟練度の限界値は「5」だが、SPを消費すれば熟練度の限界値の上限を高める事は可能な事は昨晩に調べており、レアは明日の朝に文字変換の能力でSPを増やしてスキルを更新する事を決める。



「ところで聞きたい事があるんですけど、聖属性の付与魔法は回復魔法なんですか?」

「いえ、本来は怪我の治療ではなく、肉体の身体能力を上昇させる事が出来るスキルです。但し、付与魔法の場合だと支援魔導士の補助魔法と比べると効果は薄いようですが……」

「そうなんですか……でも、本当に身体は大丈夫なんですか?」

「ええ、こう見えても若い時は冒険者をやっていたので……あ、申し遅れました。私はセンリと申します」

「どうも……あの、冒険者というのは何ですか?」

「勇者様の世界には存在しないのですか?冒険者とは……分かりやすく言えば何でも屋ですね。魔物や盗賊討伐、商団の護衛、生態調査、他にも人材派遣やペットの世話まで様々な分野に優れた人間が集まる職業です」

「最後のだけがなんかしょぼくないですか?」

「いえ、意外とこういう仕事が難しいんですよ。貴族が狩っている犬猫は特定の餌を与えなければ食べませんし、時間通りに散歩やトイレの世話をしないといけません。しかも少しでも不備があれば料金を支払わない人間もいますし……」

「そ、そうなんですか……凄いですね」



予想外のセンリの言葉にレアは戸惑うが、まずは派手に荒らされた医療室を見て兵士に報告を行う事にした。この医療室の惨状の原因は暴れ回ったセンリのせいではなく、彼女が狂暴化した原因を生み出した「妖刀ムラマサ」を作り出したまま放置した考が原因であり、二人は皇帝にしっかりと報告を行う事を決めた――







――結果として今回の医療室の破損の責任を取らされたのは勇者である「考」と彼の指導を任されていた「ダガン」だった。考は不用意に能力を発動して危険な武器を作り出して放置した事、そして彼の指導官でありながら制作された武器を無視して医療室を退室したダガンに責任があるとして二人に罰が与えられた。


レアとしては責任は考だけであり、ダガンは無関係なのではないかと彼を擁護したが、ダガンは自分が無知なせいで考が生み出した武器の危険性を知らずに放置した事を深く後悔しており、素直に罰則を受ける。彼に下された罰は三か月間の減給と一か月間の王城の清掃を行うように言いつけられる。罰則としては軽いように思われるかもしれないが、将軍という職業は体面が大事であり、使用人のように掃除を行う姿を兵士や同僚に見られたら威厳も何もない(但し、後に当の本人は全く気にせずに鍛錬を行いながら掃除を嬉々として行う姿を見られる)。


考に関しては彼はあくまでも武器の危険性を知らなかったと言い張るが、彼は医療室に武器を生み出す際に「全ての聖剣と魔剣を調べた」と確かに報告していた事をレア、茂、瞬が断言する。そのために考は妖刀ムラマサの危険性を知りながら同じ勇者を相手に武器として使おうとしたり、医療室に放置したまま立ち去った罪を問われる(だが、医療室から彼を連れ去ったのはダガンである事も事実だが)。




結果として考は自分の能力の危険性を知りながら深く考えずに行動した罰として書庫への立ち入りは禁止され、ダガンと共に清掃作業を言い渡される。最初は彼も勇者である自分に罰を与えるのかと激怒したが、他の事情を知った勇者達が彼に反論を行い、女性陣にさえも冷たい対応をされた彼は最初の頃の生意気な態度が一変し、落ち込んだように毎日王城のトイレ掃除を行う姿が目撃される。しっかりと仕事をサボらないように彼には見張りを付けられ、ダガンも共に彼と清掃作業に勤しむ。

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