第14話 付与魔法VS妖刀

「あの馬鹿っ!!何て物を残していくんだっ!!」

「切る斬るキルきるっ!!」



レアは医療室で妖刀を振り回す回復魔導士の老婆に追いかけ回され、彼はベッドや机を飛び越えて逃げようとするが、相手はチェーンソー顔負けの切れ味を誇る妖刀で障害物を一刀両断して追いかけ続ける。必死にレアは逃げ回りながら盾になる道具はないのかと探すが、この医療室に存在する物の中に妖刀の攻撃を防げそうな物は見当たらない。


それでも抵抗しなければ殺されるのは間違いなく、武器制作で生み出された物は1時間の制限が存在するが逃げ切れるはずがなく、彼はどうにか老婆から妖刀を奪えないのかを考える。逃げ回りながら彼は切断された椅子の木片を拾い上げ、一か八かの賭けを行う。



「風属性エンチャント!!」

「きるぅっ!?」



木片に付与魔法を発動させ、彼は竜巻を纏った木片を投擲する。自分に迫りくる木片に老婆は妖刀を構えるが、彼女に衝突する前に木片が砕け散ってしまう。



「きるっ?」

「あれ!?失敗!?」

「切る斬るキルッ!!」



只の木片ではレアの付与魔法には耐え切れず、風属性の竜巻によって砕け散る。結局は周囲に木片の破片を散らばっただけであり、更に老婆を挑発する結果となる。



「きるぅうううっ!!」

「くそっ!!」



咄嗟に彼は足元の椅子を蹴り飛ばし、老婆の肉体を狙って攻撃を仕掛けるが、相手は接近してきた椅子を空中で切断して吹き飛ばす。その光景にレアは驚愕する暇もなく、彼は自分の付与魔法に耐え切れる物体を探すが、存在するのは妖刀に切断されたベッドや机の類だけだった。



「くそっ……近寄るなっ!!」

「きるキル斬る切るっ!!」



無我夢中にレアは自分の周囲に散らばっている物を投げつけるが、それらを全て老婆は切り裂きながら接近し、彼は本気で殺されると恐怖を抱く。こんな時に限って彼の文字の加護の能力は扱えず、覚えているスキルも魔法を強化するだけの固有スキルしか存在しない。



「このっ……いい加減に役に立てよっ!!」



彼は自分の付与魔法が肝心な時に役に立たない事に苛立ちを抱き、両手に「風属性」の付与魔法を発動させ、あらゆる物に竜巻を纏わせて投げ込む。それでも殆どの物体が老婆に触れる前に砕け散ってしまい、無残にも床にゴミをまき散らすだけの結果になる。



「くそっ……もういい!!こんな物いるかっ!!」

「きるっ……!?」



握りしめていた木片を投げ捨てると、追い詰められたレアはいい加減に理不尽な目に遭い過ぎたせいで怒りを覚え、付与魔法を発動させた状態で拳を握りしめる。彼の掌から放たれる風の魔力が竜巻となり、両拳に纏わりつく。その光景に老婆は一瞬だけ狼狽えたが、即座に気を取り直して上段から斬りかかる。



「斬るゥうううっ!!」

「うおおおっ!!」



相手が踏み込んだ瞬間、レアも同時に前に踏み出して右腕を振り翳す。その瞬間、老婆は足元に転がっていた木片に足を転ばせてしまい、体勢が崩れて刀を振り切れずに前方に倒れこむ。結果としてそれが前に出てきたレアの拳にカウンターの形で腹部に衝突する。



「おおおおおっ!!」

「きるぅうううっ!?」



小規模の竜巻を纏った拳が老婆に衝突した瞬間、相手の身体が衝撃波のように風圧が広がり、後方に吹き飛ばされる。老婆の肉体が7、8メートルまで離れていた壁際に叩きつけられる光景にレアは驚愕するが、同時に彼の右拳を覆っていた竜巻が消散した。



「な、何だ今の……まさか、これが付与魔法の力なのか?」



物体に付与させるしか使い道がないと思われていた付与魔法だったが、実際には自分の肉体を利用して魔法の力を纏える事に彼は気づき、レベル1の彼が老人とはいえ人間の肉体を吹き飛ばした威力を引き出した事になる。彼は冷静に自分の能力の可能性に鳥肌が立つ。



「これなら俺も戦えるんじゃ……いや、そんな事よりお婆さんは!?」

「ううっ……」



自分の事ばかり考えていたレアは吹き飛ばした老婆に気が付き、彼女が生きているのかを確かめようとすると、老婆が呻き声を上げる。彼は慌てて近づこうとした時、彼女の足元に落ちている妖刀に気付き、慌てて飛び退く。



「うわぁっ!?……このっ!!」



妖刀自体は誰かに触れなければ危険は無いのか刃の怪しい光が消えている事に気付き、レアは柄の部分を蹴り上げて老婆に視線を向ける。特に大きな怪我は見たらないが、それでも身体に強い衝撃を受けた事は事実であり、レアは彼女の身体を抱えて切り裂かれていないベッドに横たわらせる。



「大丈夫ですか!?」

「え、ええっ……何とかね。だけど、身体が痛いわ……か、回復魔法か薬をお願い出来ないかしら……?」

「薬……すいません、さっきの騒動で全部台無しになったと思います」

「ああ……そんなっ……」



老婆が暴れ回ったせいで薬が入っていたと思われる棚も倒れており、床に謎の液体が広がっているのを確認したレアは言いにくそうに答えると、彼女は何かを思い出したように彼に囁く。



「せ、聖属性……聖属性の魔法を使って……」

「聖属性……?」

「お、お願い……自分の魔法だと、回復効果が薄いの……早くっ……!!」

「は、はい!!」



老婆の言葉に従い、彼は自分の聖属性の付与魔法を発動させた。

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