第13話 高山の誤算

「ちっ……君達のような凡人に僕のセンスは理解できないさ。そんな事より、僕としても作り出した剣の性能を確かめたかったんだ。どうだい大木田?腕を一本斬られる覚悟があるなら僕と戦ってみるかい?君が勝てたら僕は奴隷にでもなってやるけど?」

「んだとてめえっ!!」

「辞めろ大木田!!高山君もクラスメイトを挑発するのは辞めるんだっ!!僕達は仲間だろう!?」

「あの……ちょっといいかな」



目の前で茂を挑発する考に瞬が注意を行うが、レアはある疑問を抱いて3人の間に入る。彼の行動に全員が驚くが、ダガンだけはレアの訪ねたい質問に気付いたように黙って様子を窺う。



「その武器が凄い代物というのは分かったけどさ……高山君のレベルはいくつなの?」

「は?レベル?何を言っているんだ……幾ら僕でも魔物と戦っていないのにレベルは上がらないさ、君達と同じレベル1だよ」

「その武器はレベル1でも扱える代物なの?もしかしたらある程度のレベルまで上げていないと扱いきれない代物じゃないの?」

「何を言い出すかと思えば……君は僕がこの刀を持っているのが目に見えないのかい?問題なく扱えているじゃないか!!」

「でも実際に武器として使用したわけじゃないんでしょう?試しに……そうだな、すいません。この部屋に壊しても問題ない物はありませんか?」

「え?あ、えっと……それなら処分する予定の花瓶ならあるけど」



レアに唐突に話しかけられた医療室の回復魔導士の老婆が驚いて机の上に置いてある花瓶を指さすと、考は面倒気に視線を向け、自分の刀に視線を向ける。全員の視線が彼に向けられ、考は溜息を吐きながらベッドから降りると机の上の花瓶に刀を構える。



「まさか僕の力を最初に見せつけるために利用するのが花瓶とはね……いいだろう、よく見ておけよ!!」

「あ、あの……机は壊さないでくださいね」

「そんなへまをするか!!とっとと退けっ!!」



机に座り込んでいた回復魔導士を念のために下がらせると、考は村正を構えて花瓶に視線を向け、両腕を振り翳して斬りかかる。彼としては剣道の達人のように「居合」のように刀を横に振り翳すつもりだったのかも知れないが、思っていたよりも剣の重量が耐え切れずに途中で刃の軌道が落ちてしまう。



「うわっ!?」

「きゃあっ!?」

「危ないっ!?」



刀を振り回す途中で軌道が変更してしまい、考はあらぬ方向に刃を振り回してしまう。その光景に誰もが唖然とするが、彼は気を取り直して刀を握りしめる。



「こ、こんなはずじゃ……このっ!!」

「ああっ!?机がっ!?」

「……外れたな」



今度は狙いを定めて刀を振り落とすが、花瓶には届かずに木造製の机に刃が減り込む。必死に考はムラマサの刃を引き抜こうとするが、その光景は初めて武器を扱う素人にしか見えず、肝心の技量がお粗末ならばどれほど高い性能を持つ武器を所持していても意味がない事が暗に証明された。



「ぶははははっ!!格好悪っ!?さっきまでの偉そうな態度は何だったんだよ!!」

「タカヤマ君、君は武器を扱う前にもう少し筋肉を身につける必要があるね!!さあ、僕と一緒に身体を鍛えようか!!」

「ち、違う!!こんなはずじゃ……」

「いいから着やがれっ!!てめえ、俺に負けたら奴隷になるって言ってたよな……ああんっ!?」

「ひいっ!?」

「ああ、私の机がぁっ……」



武器を未だに回収できない考に茂が凄むと、先ほどまでの態度はどうしたのか彼に怯えたように考は座り込み、即座にダガンが彼の服の裾を掴んで持ち上げる。そのままダガンは考を担ぎ上げ、訓練を実行するために医療室を立ち去る。



「は、離せっ!!こんなはずじゃ……」

「君は霧崎君よりも体力がなさそうだからね……今日からは特別訓練を行うよ!!大丈夫、ずっと僕が付きっ切りで指導してあげるからね!!」

「ふ、ふざけるな!!最弱職の奴より僕が劣っていると言うのかっ!?」

「霧崎君は君と違って真面目に訓練を受けているんだ!!今日は途中で倒れてしまったけど……」



立ち去るまで騒ぎ続けたダガン達を見送り、レアは自分のベッドに戻ると未だに放心状態の回復魔導士に視線を向け、気の毒に思いながらも考が置いて行ったムラマサに視線を向ける。彼の能力で生み出された武器は1時間経過しないと消失しないと本人が言っていた事を思い出す。



「ああ、もう……何でこんな事に」

「あっ」



回復魔導士の老婆が溜息を吐きながらムラマサに手を伸ばしたのを見たレアが声を上げ、彼女がムラマサの柄を掴んだ瞬間、刀身に紅色の光が滲み出した。その瞬間、老婆の瞳が赤色に変色し、あっさりと机から刀を引き抜く。



「……る」

「えっ……」

「斬る、切る、きる、キルゥッ!!」

「ちょっ……お婆さんっ!?」



唐突に物騒な単語を叫び出した老婆にレアは危険を感じ取り、咄嗟にベッドから降りた瞬間、彼女は握りしめたムラマサを振り下ろしてベッドを両断する。





――彼女が手にしたのは歴史上で最も殺人を繰り返したと呼ばれる「妖刀」であり、この剣の能力を扱えるのは刀を振り回せる筋力を持つ人間であれば誰でも使用できるが、強靭な精神力を持たなければ妖刀を手にした瞬間に襲い掛かる「殺人衝動」には耐え切れず、気が狂ったように人間を殺し続けてしまう危険な刀だった。

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