第11話 訓練開始

翌日の早朝、勇者達の男性陣は使用人に起こされると朝食を行う前に城の裏庭に案内される。全員が宴のせいで夜遅くに就寝していたため、朝早くから起こされた事で寝不足だったが、既に裏庭には勇者の指導を行うために集められた一人の将軍が存在した。



「おはよう勇者諸君!!僕が今日から君達の訓練を指導するダガンだよ!!」

「うるせえよ……朝から騒ぐんじゃねえよ」

「眠い……」

「大木田!!それに霧崎君まで……二人ともダガンさんに失礼だぞ!!」

「お前も騒ぐなよ……あっ?高山はどうした?」

「彼は部屋に居なかったら兵士達が探しているよ。君達も彼が何処に言ったのか知らないのかい?」

「あの野郎!!サボりやがったな!?」



現在は居ない考を含めた今後の男性陣の勇者の指導を行うのは帝国の将軍の中では若手のダガンという男性だった。年齢は20代後半で顔付きは童顔なので実年齢より若く見られることが多いが、最初に彼を見た人間が注目するのは肉体の方であり、顔と不釣り合いなほどに発達した筋肉が目立つ。


身長は170センチと平均男性程度の身長しかないが、その服の上からでも分かる筋肉は凄まじく、ボディビルダーが見たら裸で逃げ出す程の圧倒的な質量を誇る。その異様な外見にレア達は圧倒されるが、ダガンは歯を煌めかせながら男性にも関わらずに女性のように高い声で話しかける。



「むむっ……どうやら勇者君達はまだ寝ぼけているようだな。それならば眠気覚ましにマラソンをしようじゃないか!!そうだな……軽く城の中を走ろうか!!」

「えっ……ちょっと待ってください。この城ってうちの学校よりも全然大きいんですけど……」

「こらこら、泣き言をいうんじゃないよ!!こんな事でへこたれるようなら帝国の危機は救えないぞっ!?さあ、俺の後に続くんだっ!!いち、にっ!!いち、にっ!!」

「ちょ、おい!!あいつどう見てもマラソンの速度で走り出してねえぞっ!?」

「お、追いかけるんだっ!!」



唐突に走り出したダガンにレア達も後に続き、王城の中を走り回る。普通のマラソンと違い、ダガンは場内を走り回るので階段や通路を移動するため、3人は普通のマラソンよりも体力を消耗してしまう。しかし、先頭を走るダガンは涼しい顔で汗一つもかかずに駆け抜ける。



「どうしたんだい!?もう走る速度が遅くなってるよ!!何も考えずに僕の後を走ればいいんだよ!!」

「くそ、全然追いつけねえっ!?」

「な、何だあの人……」

「ちょっ……無理、もう走れないっ……!?」

「あ、おい、霧崎が倒れたぞ!?どうすんだ!?」

「しっかりするんだ霧崎君!!」



4人の中で「魔術師」の職業のレアは身体能力が初期の時点で3人に劣っており、城内の4分の1も走り切れない内に倒れてしまう。慌てて茂と瞬が駆けつけると、異変に気付いたダガンが引き返してきた。



「むっ、大丈夫かキリサキ君!?この程度の距離で倒れてしまうとは……もしかしたら体調が悪かったのかい!?それならそうと早く行ってくれればいいのに!!」

「いや、普通に着いて行けなかったんだろっ!?だいたいお前、碌に話も聞かずに走り出したじゃねえかっ!!」

「何っ!?全然気付かなかった……すまなかったキリサキ君!!」

「い、いえ……あの、少し休ませてくれませんか?」

「それなら医療室に向かおう!!ほら、僕の背中に乗ってくれ!!兎跳びで向かうからなっ!!」

「何でですかっ!?」

「普通に運んでやれよっ!!」



ダガンはレアを背負い込み、言葉通りに兎跳びで階段を駆け上がる。しかも普通に走って追いかける茂と瞬よりも移動速度が高く、彼等はどうして追いつけないのか理解できなかったが後に続く――





――数分後、激しく身体を揺らされた事で本当に気分が悪くなったレアは王城の「医療室」と呼ばれる部屋に運び込まれ、学校の保健室と酷似した部屋に運び込まれる。この世界には医者という存在がなく、代わりに「回復魔導士」と呼ばれる回復魔法を扱える特別な職業の人間が勤務している。



「……うん、只の疲労ね。激しい運動に身体が着いて行けなかったみたいね」

「あ、ありがとうございます……」

「先生!!彼は大丈夫ですか?」

「あの、ダガン将軍?病室で大騒ぎするのは辞めてくれるかしら……少し休ませれば平気だと思うわ」

「良かった……」

「情けねえな……とは言えないな。流石にあれは普通の人間には無理だわ」



ベッドに横たわるレアに回復魔導士の老婆が診断を終えると、彼女は休息させれば問題はないと伝える。その光景に茂と瞬は同情するように視線を向け、ダガンも安心したように両目から涙を流しながらレアの右手を強く握りしめて謝罪を行う。



「すまなかった霧崎君!!まさか君が魔術師の職業の人間だったとは……ウサン大臣から全員が戦闘職の人間だと聞かされていたから最初は少しきつめでも大丈夫かと思っていたんだが……」

「い、いえ……気にしないでください」

「少し……?」

「あれが……?」



本当に反省したように涙を流すダガンにレアは彼が悪人ではない事を悟り、決して悪意を抱いて自分達を追い詰めた事ではない事を知って安心する。だが、彼の訓練に現在のレアでは着いて行けず、彼の訓練方法を見直す必要があるのは確かだった。

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