第10話 嫌がらせ

歓迎の宴を終えた後、勇者達は自分達が寝泊まりをする部屋に案内される。しかし、他の勇者が王城の二階に案内される中、レアだけは途中で別れて一階に存在する部屋に案内される。部屋の中は個室ではあるが元々は物置部屋ではないかという程に薄汚れており、窓の類も見つからず、最低限の生活が出来る家具しか用意されていなかった。



「何だよこれ……」



茶色に染まったベッドにレアは視線を向け、事前の皇帝の説明では勇者全員に個室が用意されており、世話役の使用人も用意するという話を聞いていたが、彼の場合は物置のような部屋に使用人の姿も見当たらない。



「くそっ……やっぱり大臣の頭をからかったのが不味かったか」



自分の割り当てられた部屋にレアは先ほどの会場でウサンを辱めた事が原因だと判断し、彼の指示で恐らくはレアは別の部屋に割り当てられたと考えた。確かに先ほどの彼の対応は無礼と言われても可笑しくはない行動だったが、それでも先に仕掛けたのはウサンであり、逆上して殴りかかろうとした所を引き留めたのは王女である。


しかし、時刻も遅いのでレアは今日だけはこの部屋で過ごし、明日の朝に皇帝に部屋の事を相談して別の部屋を割り当てて貰う事を決意してベッドに座り込む。



『発動条件を満たしました。これより文字変換の再使用が可能になりました』

「あれ?もう文字変換の能力が使えるようになっている。なんでだ?」



寝る前にレアは自分のステータス画面を確認すると、何故か最初に発動させてから24時間が経過していないにも関わらずに自分の能力が再使用できる文章が追加されている事に気付く。そして彼は文字変換の能力の使用条件を正確に思い出し、ある結論に至る。



「あ、そうか!!1日というのは24時間の事じゃなくて日付を現していたのか!!だから今はもう使えるのかも……」



こちらの部屋には時計が存在しないので正確な時刻は分からなかったが、宴は大分長引いていたので現在の時刻が既に深夜12時を迎えているのは間違いなく、使用条件を満たしたのだと彼は考えた。


レアは自分の「文字変換」の能力を正確に思い返し、ステータス画面を開いて確認する。最初に彼が疑問を抱いたのは勇者の加護の説明文であり、こちらには「1日に1文字だけあらゆる文字を変換できる」と書かれていた。この文章で彼が気になったのは「あらゆる」という部分であり、レアはもしかしたらと思いながらも自分のSPの項目に人差し指を差し出す。すると玉座の間の時のように指先に魔法陣と光が浮かび上がり、触れた文字が自由に変化出来る事に気付く。



「嘘だろ……本当に出来たよ」



彼の視界にはSPの項目に存在する数字の数が「10」から「90」という文字に変換しており、彼は自分の能力でステータスに表示されている文字さえも「変換」する事に気付いた。そして通常ならばレベルの上昇以外で入手できるはずがないSPを大量に獲得する事に成功し、彼は冷や汗を流す。



「1日に1回か……という事はぎりぎり数値が10を割らなければ何度でも二桁目(十の位)の数字を「9」に変える事が出来るのか」



彼の能力では1文字分だけの文字変換しか行ず、しかも文字を追加したり、あるいは削除する事は出来ない。そのため、彼のSPが一桁になった場合は最大で変更できる数字は「9」だけとなり、この状態では自分の職業に適したスキル以外は習得できない。


逆に言えば彼のSPが二桁の状態のままならば最低でも「90」の数字にSPを変換する事が可能であり、これを1日ごとに繰り返せば彼は大量のスキルを覚えることが出来る事に気付く。更にそれだけではなく、SP以外の項目にも文字変換の能力が適応した場合、どのような結果が生まれるのか彼は気になった。


もしかしたら自分の能力が召喚された人間の中でも一番に恵まれているのではないかと考えながら、まずは先ほど習得し損ねたスキルの習得を開始する。今回が彼が覚えるのは「魔法耐性」「魔力回復速度上昇」「魔法威力上昇」「魔力容量拡張」の4つであり、合計でSPを「10」消費して覚える。



『SPを消費して固有スキルを強化しますか?(SP消費量:5)』

「あれ、固有スキルはSPを消費して強化も出来るのか……熟練度とは違うのかな」



ステータス画面の説明文が追加され、固有スキルに限りSPを消費して能力の強化が可能という文章が表示される。レアは迷った末にSPに余裕があるので彼は4つのスキルを限界まで強化させる。



―――――――――――――


固有スキル


・魔法耐性――魔法攻撃に対して強い耐性を得る:レベル3

・魔力回復速度上昇――消耗した魔力の回復速度を上昇:レベル3

・魔法威力上昇――魔法の威力を上昇:レベル3

・魔力容量拡張――魔力を増加:レベル3


―――――――――――――



「後のSPは20か……何処まで強化できるのか試すか」



これ以上に全ての固有スキルの能力を強化されるとSPが全て失くなってしまうため、レアは「魔法威力上昇」のスキルを集中的に強化させた。



「これでいいかな……レベルの数値が何処まで高くなるのは分からないけど、SPが10を切らないようにしないとな」



画面上の「魔法威力上昇」のレベルが5まで高めたのを確認すると、彼は明日からの訓練のために身体を休める事にした。

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